〜インド編〜

 
第九話
最悪なるへの案内人の巻
 
タージマハルを観光。しかし・・・
 
運転手付き観光ツアーという非常に贅沢な状態により、
タージマハルへの道程は簡単極まりないものであった。
インド髄一の観光名所であるここでは、観光客目当ての
ボったくりインド人(ボラー)の、タチの悪さ・密度は共に最高レベルである。
さながら砂糖に群がる蟻の如く、というか、奴等にとって外国人など、
金の詰まった皮袋にしか見えてないらしい。マジで。
駅前リクシャーの悪徳さは特に有名で、被害に会う観光客は後を絶たない。
しかし、自分はそんな連中などワープして、
ここへと辿り着いてしまったのだ。
ボられる心配も無く、実に安全。
最も、このツアーそのものが、すでにボられているのだが。
 
タージマハルの美しさは、噂に違わぬものであった。
これ程の類稀なる建造物は、世界中を見廻しても、そうは無いと思う。
もともと今回の旅の中で、最も興味を持っていた観光スポットの一つなのだが、
それにも関わらず、今の気分はちょっとブルーである。
庭園内を一通り歩いた後、ミニバスに乗り駐車場へ戻ると、
自分の雇ったインド人の運転手が待っていた。
そう、ブルーの源コイツなのだ。
払ってしまった金についてはすでに諦めている。
かなりの金額ではあったが、ツアー自体が嘘な訳ではないし、
それをいつまでもボヤいていても仕方が無い。
ただ、どうしてもこの運転手のキャラクターに対して、
腹の立つを抑える事が出来ないのだ。
これから、一体彼がどれ程ムカツクのかを検証してみよう。ムキー。
 
検証その1:顔
奴の年齢は30代半ばといった感じで、
顔はとにかく典型的なインド人の顔としか言いようが無い。
というか、自分の中でインドの男の顔は、
3パターン位にしか分類出来ない。
要するに、皆同じようにしか見えないのだが、旅行者という立場上、
ムカツクインド人と接する事が多い為、結果的に奴の顔もムカツク事になる。
 
検証その2:言動
奴はとにかく馴れ馴れしい。特に好んで使う単語の一つが「フレンド」だ。
事ある毎に「フレ〜ンド」「トモダチ〜」を連発し、
その度に俺様の怒ゲージは着実にポイントを稼いでいく。
またこの言葉は、国内に5千万人は存在すると思われる
インド人ボラー達の、常套句として有名だ。
「安いよフレンド」「見るだけフレンド」「乗ってけフレンド」
「OH!マイフレンド」「ウォンチュ!フレンド」「フ、フレンド?」
など、バリエーションは多岐に渡る。
大体、こういう事を言う奴に限ってタチが悪いと決まっているし、
実際にムカツク目にも遭っている。
つまり、インド人の使う「フレンド」とは、
極めて危険なNGワードと言っても良い。
よって、奴の言動も最悪であると判断せざるを得ない。
 
検証その3:観光ルート
タージマハルとアーグラー城の2箇所を廻ったあと、次に何処へ行くのかを聞くと、
運転手は「マルブル」と答えた。
なんだそれは?
聞き違えたのかと思ったが、到着してみると、
それが間違いでは無かった事に気付いた。
着いたのは、ここの特産品である大理石を専門に扱った工房兼店であった。
要はマーブルという訳だ。(第三話参照)
どうやらここで何か買ってけという事らしい。
そして客の支払った代金の一部は、マージンとしてこの男のものとなるのだ。
ホテルへ戻れ
土産など買うつもりは無いので、自分の率直な意見を伝える。
「ホワァ〜イ?マイフレ〜ンド」
「ミルダケ〜ミルダケ〜」
その態度にリミットブレイク寸前ではあったが、
奴も簡単には引き下がりそうも無い。
だったら見るだけ見たるわ
車を降り店舗内に入ると、一人の日本語使いの若僧が話しかけてきた。
「コンニチワ〜オゲンキデスカ〜」
「ワタシ〜ニホンゴ〜ハナセマ〜ス」
彼はそのカタコトの日本語を駆使し、
工房内で大理石の装飾品を仕上げる様々な作業の様子を紹介した。
「なかなか面白いけど、買わんよ
「OK〜ミルダケ〜ゼンゼンノープロブレ〜ムデ〜ス」
嘘つけ
慈善企業では無いのだから、今の彼の気持ちは、
店自慢の品をいかに多く
そして高く売るかの一点に集約されている筈だ。
だが、俺様が財布を開く事は決して無かった。
金の事以前の問題で、そもそも、商品に大して魅力を感じない。
他人の土産などハナから買うつもりは無いので、
大理石の置物など重いだけの荷物にしかならない。
そんな感じでフテくされていたのだが、次第に店の奥へ案内されるに従って、
なんだか少し恐くなってきた
自分以外に客が誰もいないのと、店内の薄暗い雰囲気がその大きな理由である。
そして、一番奥の部屋へ入ると、
そこにはここのボス的存在の男が椅子に腰を掛けていたのだが、
この男も日本語を使う。しかも、かなり流暢だ。
「飲み物でもどうですか。インドは暑いでしょう」
従業員が運んで来た瓶入りコーラには、すでに栓が抜かれ、
ストローが差し込まれてきた。
ここで「ガイドブックで読んだエピソード」「ツアーそのものへの不信感」
「ここは日本では無いという気持ち」「ちょっとブルー」
という4つの要因によって、一つのシークエンスが思い描かれた。
コーラ飲む→睡眠薬入ってた→意識失う→睡眠→睡眠→?→
目が覚めた→ここが何処だか解らないが、とにかく野原
しかも全裸→しかも3日経ってた助けて大使館
不安が頭をよぎる。
「いや、全然咽渇いて無いから」
その後、男は店の品々の魅力について熱弁を奮い、商談モードへと突入する。
「いや、買わないから」
だから、買わないって
買わないっつってんだろーが
このバカチンが!
(武田鉄也風)
逃げ出す様にマーブル屋を出た後、
次に連れていかれたのはジュウタン屋であった。
「ミルダケ〜ミルダケ〜」
そしてやはり、日本語使いの従業員が現われ、
ジュウタン造りの行程を順番に見せてくれる。
まあ、見ること自体は学校の社会科見学の様で
案外嫌いでは無かったりするのだが、いくら親切にされたからといって
何か買ってあげようとう気持ちには全くならない
それが一仕切り終了すると、かなり大きい物から手のひらサイズの小さな物まで
様々なサイズのジュウタンを並べ始め、いよいよ商談モードに突入した。
こうなるともう、店を出る事しか頭に無い。
「いや、買わないから」
だから、買わないって
買わないっつ(以下略)」
そしてジュウタン屋を出た後、
奴に連れていかれたのは、なんと別のジュウタン屋であった。
「ミルダケ〜ミルダケ〜」
そ・・・そりゃねえだろ・・・。
相変わらずの爽やかさのカケラも無い笑顔に、愕然とする。
という訳で、ムカツクんじゃこの糞ガキ!!
 
検証その4:奴のその目的
この日宿泊するホテルの部屋は、今までに泊ったものの中で最も高そうであった。
エアコン付きでしかもバスタブまである。
そしてレストランで食事を取り、ロビーでの別れ際、
奴はついにその真の目的を露にした。
「どうだ、今日は楽しかったか」
「え、まあ、そうだな」
あくまでも一応そう答える。
「お前は何で土産を買わないんだ?」
「アイハブノーマネー
金が無いというのが明らかな矛盾だというのは、自分でも解っていた。
金の無い奴がインドまで来て、こんなツアーに参加する筈が無いのだ。
「店に行くのは嫌なのか?」
「行っても何も買わんからな」
「何で土産を買わないんだ?」
「アイハブノーマネーOK?
ああ疲れる。そして奴が本心を語り始めたのは次である。
奴はとても信じられない事を、平然と言ってのけたのだ。
「俺は明日もお前の為に頑張る、だから、」
・・・だから?
「俺達が別れる時に、チップを弾んでくれ
ド〜ン
(心の中の音)
流石の俺様もこれにはキレた。自分から言うか?普通。
しかもまだ、1日目が終っただけだというのに。
「じゃあ、幾ら欲しいんだ?ああ?」
それは俺からは言えない
 「いいから幾ら欲しいか言ってみろ
「お前が幾らくれるか言ってみてくれ」
質問を質問で返すなっつーの。だったら言ってやる。
5ドル
「オー!フレ〜ンド!俺の頑張りはそんなものなのか〜
めちゃめちゃ不服そうである。当然5ドルすらやるつもりは無いのだが。
「だったらお前が言ってみろ
奴は空々しく、ためらいがちな素振りを見せこう言った。
100ドル
ドド〜ン
いかん、気を失いそうになった。
明日、こいつのカレーにウンコでも入れといてやろうか。
「だったら俺は列車で帰る
この一言に相当動揺した様で、奴は自分の言った金額を値下げし始めた。
「80ドル」
「駄目だ」
「50ドル」
「嫌だ」
「30ドル」
本当は、びた1ルピーやるつもり無いのだが、
明日ジャイプルへ乗せて行ってもらう事もあって、一応そこで返事をしておく。
サンキュ〜フレ〜ンド!
こんなムカツク奴見た事が無い
やはりこのツアーを組んだのは失敗だったとつくづく思う。
かつてこいつに、100ドル払った日本人がいるのだろうか。
だとしたら、それは実に嘆かわしい事である。
 
 
ジャイプルを観光した次の朝、
俺様は早朝からホテルを一人でチェックアウトした。
ツアーの予定では、に乗ったりするらしいのだが、
そんな事よりもこれ以上、あの糞ガキと顔を合わせるのが嫌だったからだ。
しかし、暫くして奴は、ホテルの人間が知らせたのか、
車で自分の後を追ってきた。
「ホワ〜イ、フレ〜ンド!」
何がホワイって、お前のその性格じゃ!
それを何とか撒いた後、リクシャーを捕まえ長距離バスターミナルへ向かう。
ニューデリー行きのチケットは、そこで問題無く手に入れる事ができた。
自分の脚でルートを探し、実行する。
やはり旅はこうではないとイカン。
あの様な過ちは二度と繰り返すまい、
荒野をひた走るバスの中で自分自信にそう誓った。
気分は実に清々しい。
 
さて、明日はいよいよビザ申請の日である。
 

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