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[20] 酒場の物語 コバ 2002/06/06(Thu) 16:16
「子供の名前に画数の多い漢字を使うのはヤンキーか芸能人かオタクだけさ」

ため息まじりに男はつぶやく。
苦渋に満ちたその顔は、人生のあらゆる楽しみを忘れ去ろうとしているようだった。

「考えてもみろ。ギャラクシー、なんて名前を息子につける父親がまっとうな神経をもっていると思うか?
 魏志倭人伝の魏に弥次喜多の弥、羅生門の羅に、櫛だ。
 画数の多い方の”クシ”だぞ。木偏の。
 まっとうな神経のはずがない。例えそれが・・・」

男はバーボンを流し込む。焼け付くようなアルコールの味が苦い記憶をいっそう際だたせる。

「それが俺の父親だったとしてもだ・・・。」

嘆き続ける男に、マスターが声をかける。

「荒れてますねギャラクシーさん。」

「その名で俺を呼ぶなと言ったろう!」

男は声を荒げる。「せめて名字で呼んでくれ」

「ええ、わかりましたよ。コズミックさん。・・・これでよろしいですか?」

男は苦笑する。

「あぁ・・・。ありがとう。・・・なんだって俺はこんな名前に生まれっちまったんだろうなぁ。」

グラスを磨きながらマスターは答える。

「なぁに、世の中そんなもんですよ。私だって名字が酒場野で、
 名前が”ますたー”ですよ。ひらがなで”ますたー”。ふざけてるでしょう。
 ホントは銀行員になりたかったんですがね、こんな名前だから、諦めましたよ。
 あそこでたくさんの女の方にかこまれてらっしゃる方、
 あの方は”女田 ラシ”というみたいですし。」

肩を少しおどらせてマスターは言う「世の中そんなもんですよ。」

しばらく目を伏せて男は何かを考え込む。やがて、ゆっくりと語り出す。

「では俺は・・・コズミック・ギャラクシーという名だから・・・
 もしや銀河そのものなのか?」

笑いながらマスターは答える。

「だいぶ酔ってらっしゃるようですね。もう飲まれないほうがいいんじゃないですか?」

マスターの声が聞こえていないのか、一息にグラスを空けて男は席を立つ。

「俺は、銀河だ、流れ星銀河だ。」

うわごとのように繰り返して男は酒場を出る。

あわててマスターは追いかける。

「コズミックさん、お勘定!」

しかし男の姿はもう見あたらなかった。

マスターがふと空を見上げると、今まで見たことのない星が
煌々と輝いていた。


それからというもの、宵の明星は「コズミックギャラクシー一番星」と呼ばれるようになったとさ。めでたしめでたし。
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[19] 招集 がらがん 2002/06/04(Tue) 18:41
空軍から重治に召集令状が送られてきたのは、重治が生後7ヶ月の時だった。父母に見送られ空軍基地の門をくぐり、切磋琢磨の末、3歳の時には重治は空軍大将になっていた。「異例の昇進」「縁故の成せる業か?」「さすがは空軍幼年学校」とどの新聞も書き立てたが、まだ漢字が読めない重治には気にならなかった。

大将に昇格して重治は戦略空軍司令官となった。そんなある日、敵の核ミサイルが飛んできた。重治は考えた。今すぐ敵の戦略目標への核攻撃を開始すべきなのか?それとも偵察衛星の二次確認まで待つべきなのだろうか?迎撃ミサイルの射程距離は?そこに敵ミサイルが入るまでの時間は?普段は冷静な重治の額にも汗がにじみはじめた。とにかく大統領に報告せねば。重治は目の前の赤い電話を取リ上げた。大統領は電話に直ぐでた。

「ぱぷぅ?」

あ、間違いなく大統領だ。重治は安堵した。それは大統領の、高音ながらも威厳にみちた、冷静で落ち着いた反応だった。重治は状況を報告した。

「ぱぷぅ。ぱぁぷぅ!ぱぁぁぷぅぅぅ」

ちぇっ、少しいつもより緊張しているぜ、と自分の声を聞きながら重治は思った。<完>




[18] 大型伝奇小説「五條霊戦記」 s・バレット 2002/06/04(Tue) 17:40
草木も眠る牛三つ時。

濃厚な闇が横溢する時分である。

五條の橋の上で二つの影が対峙していた。

「おぬしが噂の人斬り鬼一郎か」

「ふふっ、そうともよ。斬って斬って斬りまくり、その数今日までに99。貴様で丁度百人目よ、覚悟せいっ」

鬼一郎は凄んで刀を振り上げた。

が。男はそれを見てガマのように笑う。

「百人?その程度でようも儂の前に顔を出せたものよ」

「なにっ」

「儂の名は毒蜘蛛才蔵。お主と同じ人斬りよ。儂がこの妖刀毒蜘蛛とともに築いた屍、その数999。お主とは格が違うわ」

「なっ」

「お主をこの刃の千人目の餌食としてくれようっ」

才蔵がくわっと目を剥き吠えた。

しかし。

才蔵が抜いた妖刀毒蜘蛛を見て、鬼一郎はにやりと笑った。

「貴様では勝てぬ、毒蜘蛛才蔵」

「何っ」

「確かに999人は凄い。だが!」

鬼一郎が言い放った。

「その自慢の妖刀毒蜘蛛、『特売品十文』の値札がついたままじゃぞ!」

「なっ」

「二八ソバより六文も安い妖刀などにこの鬼一郎が遅れをとるか!」

「ほざいたなっ小僧っ」

二つの影が同時に構えた。

攻めぎあう妖気と妖気。

一触即発であった。

とその時、

「がははははっ」

天を割るような哄笑。見るとそこに雲をつくような大鬼が立っていた。

「何者っ」

「俺の名はましら童子。三度の飯よりも血を見るのが好きな性分のおかげでその身が鬼に変じた男よ。引き裂き肉を食らったその数9999。うぬらなど比べ物にもならんわっ」

「なにっ」

才蔵が悲鳴を上げて膝をついた。

「なんてことじゃ、儂を遥かに越える人斬りとは…」

「うぬらを喰ろうて万人目と一万一人目としてくれる、有り難く思えっ」

ましらががらがらと笑った。

しかし鬼一郎、動じぬ。

ましらの背中を確認するとにやりと笑った。

「ましら童子、貴様が俺に勝てる道理はないわ」

「なにっ」

「確かに万人は凄まじい。よくぞそこまで殺したものよ。しかしましらよ!」

雷のように鬼一郎の声が響いた。

「貴様、背中のチャックが見えておるぞ!」

「うっ」

「地方TV局が低予算で作ったきぐるみなどにこの鬼一郎が遅れを取るか!」

「おのれっ!」

叫ぶと同時にましらが飛び掛かった。

ひらりと躱す鬼一郎。

激戦は必至であった。

その時。

「あ、あれはなんだ?」

才蔵の声に二人が振り向く。

赤子であった。

しかも全身真っ白に光り輝いている。

赤子が言った。

<控えよ>

三者は一様に驚愕した。声が頭に直接響いてきたのだ。

<我は渾沌と破壊の魔王・阿修羅王の転生なり>

<転生に転生を繰り返すこと幾億万度。その度に一つの宇宙を滅ぼしいずれは三千大世界全てを滅する者なり>

<これまでに滅ぼした世界、その数99億9999万9999>

<今我が転生せしこの世界、百億個目となるは必定なり>

赤子から発せられる凄まじい闘気。それだけで才蔵とましらは昏倒した。

しかし鬼一郎だけは違った。



なんだこの感じは

熱い、身体が熱い

…この赤子は…俺は………

っ!!



「ああっ」

そして鬼一郎は覚醒した。

毅然とした表情で阿修羅王に向かい合う。

「聞くがいい、幾億万度と転生し三千世界に終末をもたらす破壊の魔王・阿修羅王の生まれ変わりよ!」

<なにっ>

「貴様では俺に勝てぬ。なぜなら!」

鬼一郎が吠えた。

「俺はぁぁぁ」

「未来からやって来たぁぁぁ」

「貴様の生まれ変わりのぉぉぉ」

「そのまた生まれ変わりだぁぁぁ!!」

「阿修羅王などにこの阿修羅王が遅れを取るかぁぁぁ!!」

その言葉は霊力の波動と化し、凄まじい衝撃を阿修羅王の転生体にもたらした。

<バカなああああ!>

悲鳴とともに阿修羅王の身体がぼろぼろと崩れてゆく。

<だが勝ったと思うなよ!必ず、て、転生を果たし貴様を!>

その言葉を最後に断末魔を上げて阿修羅王は消滅した。

脱力しその場にへたれこんだ鬼一郎の目に光が射し込んでくる。

朝日であった。

鬼一郎の顔を朝日が爽やかに照らし出す。

昇る太陽に鬼一郎はそれまでとは別人のような清廉な笑顔を浮かべ、呟いた。

「…これ、勝ちなの?」




[17] 大型取締役小説・常務のイス ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:22 [URL]
「吉野君、君もそろそろ常務になってもいいころではないかなぁ」
1日の仕事を終えて、そろそろ帰ろうかと、散らかった机の上を整理していた吉野久助取締役に声をかけたのは、田嶋徳三郎社長であった。

久助と徳三郎は、もともとは先輩、後輩の関係であり、久助は後輩で、部下の一人だった徳三郎に営業の真髄を仕込んだのである。そんな二人の関係を逆転させる出来事が起こる。その当時、係長だった久助の元に人事発令案内が回覧されてきた。

『棚田徳三郎 営業1課 課長を命ずる』

何でだ、何故平社員の徳三郎が、いきなり俺の上司になるんだ。その理由を知ったのは、週末の金曜日だった。
「吉野係長、今晩お暇ですか?話したい事があるのですが・・・・・・・」
そう切り出したのは、徳三郎だった。丁度いい、聞きにくいと思っていたんだ、向こうから話してくれるなら聞く手間も省ける。

待ち合わせの場所に着いた久助を待っていたのは、徳三郎だけでなく社長令嬢の田嶋波留と二人だった。

それから30年が過ぎた。
徳三郎にしてみれば、後ろめたさがあったのか、久助は、常に徳三郎と同時進行で昇進・昇格していった。徳三郎が次長になれば久助は課長に、徳三郎が部長になれば久助は次長にという具合に・・・・・・・・・・・

「吉野君、君もそろそろ取締役になってもいいころだね」先代の社長から声をかけられたのは3年前のことであり、そのとき、田嶋社長は会長に、徳三郎常務が新社長に、久助は取締役に就任した。快挙である。田嶋一族以外の者が取締役に就任するのは、亀田山電気創業以来、初めてのことであった。

引退した田嶋会長が亡くなり、田嶋波留副社長も体調が優れず、今は、徳三郎が名実共に最高実力者として幅をきかせている。そんな田嶋久助社長から常務の指名を受けだのだ。久助は飛び上がらんばかりの気持だったことであろう。

「手続があるんで、あした実印と印鑑証明を持ってきてくれ」

常務になってはじめての出社の日である。
亀田山電気では、常務以上の役員に、個室と秘書と運転手付の社有車が支給される。
「ああ、これが、あこがれていた常務室なんだな〜。イスも革張で立派だな〜。おまけに秘書は美人だな〜。朝は運転手が迎えに来てくれるし、楽チンだな〜」
田嶋社長が常務の時代に、何度も呼びつけられた部屋である。パターの練習をしながら、つぶやくように、ささやくように、歌うように独り言をいう吉野久助常務がそこにいた。
久助の趣味はゴルフでは無い。パターの練習は、テレビや映画の中に出てくる重役が、必ずそうしているから、やってみただけである。そもそも、ゴルフなどやったことのない久助は、「案外つまらんものだな〜!」とまたまた、つぶやくように、ささやくように、歌うように独り言をいいながら続ける。

コン、コン。ノックの音だ。
「入り給え!」秘書かと思いきや徳三郎である。「シャチョウー」「なんだい、鶏が首を締められた様な声を出して。あぁ、そのまま、そのまま。おどかして済まない。吉野君、ここにハンコを押して、署名してくれれば全ての手続きが終了だ。あっ、駄目ダメ、そこは実印じゃないと。あと、実印は、秘書の山田君に渡しておいてくれ給え!あとは、彼女がやってくれるから」

それから10日後、毎朝8時半にくるはずの運転手が来ない。自動車電話に架けても通じない。仕方なく、電車で出社すると、会社の前は、黒山の人だかり。多くの社員が、正門前の張り紙に呆然としてただ立ちすくむのみである。「田嶋出てこい。隠れても無駄だ。そこに居るのはわかっているんだー」債権者たちの興奮した声が高々と響く。
もちろん、トンずらした徳三郎がそこに居るわけがない。
社員の一人が久助をみつけ「常務だ、常務が居たぞ、逃がすなー」と叫ぶ。久助はたちまちのうちに、200人余の人間に取り囲まれもみくちゃにされてしまった。

それから、半年、カナダの別荘のテラスで、愛人の山田元常務秘書とのんびりと渋い日本茶をすすりながら、いちご大福を頬張っている亀田山電気元社長、田嶋徳三郎の姿が確認されている。
同じ頃、亀田山電気元常務取締役の吉野久助は、伝来の田畑を失い、岐阜のひなびた温泉宿で、サンスケ兼、風呂焚オヤジとして、静かな余生を送っている姿が確認されたという。
それから一月後、波留が入院先の病床で、旧亀田山電気の元社員たちに見守られながら静かに息を引き取ったとのことである。彼女は朦朧とする意識の中で「今回はセリフが一言もなかったわ」と最期の言葉を、つぶやくように、ささやくように、歌うように残して西方へ旅立った。彼女の頬には一筋の涙が流れ落ちた。


[完]



[16] 大型シロモノ家電ミステリー小説・事件の真相 ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:20 [URL]
「久助、プリン食べたでしょう!」帰宅した久助に『お帰り!』の挨拶もせずに、藪から棒に波留が仁王立ちで怒っている。久助にとっては、まったく身に覚えのないことなのだ。

久助と波留は、新婚1年と3ヶ月と2日。普通なら今が一番楽しい時期なのに毎日喧嘩が絶えないのだ。原因はいつも決まっている。冷蔵庫に仕舞ってあった食品が無くなるのだ。

「この間だって亀田山亭の羊羹食べちゃったじゃない!一日限定50本で朝早くから並ばなきゃ買えないんだから・・・・・・、ひっく、ひっく」張り詰めていた感情を怒りの形で顕した後は、その緊張が崩れ、今度は泣きベソかきに変わった。

30分程泣いて、ようやく落ち着きを取り戻した波留は久助に尋ねた。


「ねえ、私たちって何時からこうなったのかしら?私ね、考えてみたのよ。食べ物が無くなるのはね、今の冷蔵庫になってからよ。今日だってさ、二人で一緒に家を出て、波留のほうが先に帰ってきて、冷蔵庫開けたら、朝あったはずのプリンがないんだもの。久助が食べるはずないの知っているの。でもね、この部屋には、波留と久助しかいないんだもん。八つ当たりしてゴメンね、久助」


確かに、今日は二人で一緒に通勤して、同じ職場で働き、波留が先に帰った。でも、何かがオカシイのだ。時々、ビールが無くなるのだ。久助は左党で甘いものが嫌い、逆に波留は下戸で酒が飲めず、甘いものが大好き。どう考えてもなくなるハズがないのだ。考えたこともなかったが、思い起こせば波留の言うとおり、今の冷蔵庫になってからトラブルが起きているのだ。


この冷蔵庫は、二人が勤める家電メーカー、三ツ星電機の試作品なのだ。食品の在庫管理を自動でしてくれる最新型である。例えば、肉や牛乳を買って冷蔵庫に入れると、賞味期限を自動で読み取って管理してくれるのだ。扉についた液晶ディスプレイに、『牛乳賞味期限まであと二日、残量350ミリリットル』と表示される。久助が独身時代から使っていた冷蔵庫の調子が今ひとつ良くないと思っていた矢先に、『社内モニター募集』の掲示が目に入った。試作品の社内モニターなので、価格はタダである。二人は飛びついた。月に一度、モニターレポートを提出することになっているが、明日がその期限なのだ。


商品開発部に寄せられたモニターレポートをチェックしていた開発部長、棚田徳三郎は、『食品が時々無くなる』というレポートに注目していた。社内モニター夫婦10組の内、4組が書いてきているのだ。あとの6組は、同様な現象が起きていないのか、気づかないのか、気づいていてもレポートに書いて来ないかのいずれかであると徳三郎はにらんでいた。


社内食堂で徳三郎は久助に声を掛けた。
「吉野君、例のレポートの件だけどね、変なことが起きるんだって?」
「それなんですけど、頭が変だと思われるかもしれませんが、時々仕舞っておいた食べ物がなくなるんです。」
「それなら気のせいじゃないよ。現に、モニター社員10人の内、4人のレポートに書いてある。実際、開発段階でその現象は確認されているんだ。商品が世に出てから不良が起きては遅いんだ。そのための社内モニターさ。来月も引き続きレポートをたのむよ。じゃあな!」

気のせいじゃないとは不思議なことを言うものだと久助は思ったが、その意味がわからなかった。その晩も、食品が無くなる事件が起こった。


その週末に久助と波留は、原因解明に乗り出した。
「久助、私たちって、スパイみたいね。何が起こるのかわくわくするね。」
波留のお気に入りにプリンを5個と亀田山亭の羊羹を一サオ、久助の好きなイカの塩辛と吟醸酒5本を冷蔵庫に忍ばせる。二人は息を潜めて押し入れに入り、侵入者の来るのを待つ。週末の二日間が終わったが、侵入者は現れなかった。

「結局、だれも来なかったよね。あーあ、押し入れに二日間も入ってて、損しちゃった!お夜食でもつくるね。あれー、プリンが2個しかない。羊羹だって、なくなっている。久助のお酒だって1本しかないよー!」

二人は、何が何だか判らなかった。

次の週末に、久助は、冷蔵庫内に小型カメラを取り付けることにした。赤外線カメラで、明るくなくても様子がわかるのだ。押入れの中でディスプレイを眺める久助と波留。監視をはじめてから6時間が経過していた。はじめに異変に気づいたのは、波留だった。

「ねえ、ねえ久助、プリンの蓋が開いてる。」
モニターを見つめていた二人は、自分の目を疑った。
小人が7人、波留のプリンを食べているのだ。
波留と久助は、冷蔵庫の扉に耳を近づけて小人たちの話を盗み聞きしてみた。

「やっぱり、プリンはキング食品のがおいしいよな」
「そうそう、原料の牛乳が北海道産で、味がまろやかというか濃いっていうか、なんとも言えないよな」
波留は小人達の会話を聞いていて怒りが込み上げてきた。
「そうよ、他の会社のに比べて3割も高いんだから。ホントは他ので良いんだけど、美味しいから無理して買ってんのに、あんたたちが食べちゃうから、私の口に入らないじゃない」

ブツブツ独り言を言う波留を久助がなだめた。
「まあまあ、良いじゃないか、プリンの一つや二つ」
「一つや二つじゃないわ。通算37個よ。金額にして5,051円、カッコ税込み!それに久助、今度はあなたの番よ!」

見ると、吟醸酒を開けて酒盛りを始めているのだ。

「それにしても何だな。大してすることもないし、冷蔵庫の中は冷えるから、酒でも飲まないとやってられないな」
「同感、同感。おーい、まじめに仕事してないで、お前も飲めよー!」
「もう少しで終わるからー!」
久助がディスプレイをのぞくと、1人の小人がせっせと手帳を持って食品の賞味期限と量をチェックしている。ノートPCを取り出してデータ入力をし始めた。

波留が冷蔵庫の扉を確認すると、『プリン2個、賞味期限まで4日』となっている。朝、確認したときは『5個』だったのだ・・・・・・・。これが、真相である。

三ツ星電機の新型冷蔵庫が売り出されることは無かった。

[完]



[15] 大型テーマパーク小説・地獄めぐり(後編) ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:18 [URL]
テーマパーク小説

地獄めぐり(後編)

くだんの中年の婦人が失神した。久助はツアーの面々を見渡した。一行は顔面蒼白である。少し前まで元気いっぱいだった波留でさえそうである。自分の顔だって同じだってことは充分予想できる。この後、何が起きるのだろうか?

そう考えていると、徳三郎が声を掛けた。

「さあ皆さん、気を取り直して行きましょう!次は受験地獄ですよ!」

『受験地獄』か?どうやら一安心のようだ。久助は胸をなでおろした。

お決まり通り、『必勝』と書かれた鉢巻をして机に向かっている受験生がいる。牛乳ビンの底のようなメガネをして顔は青白く、表情が暗い。家庭教師と思われる大学生が問題を解かせようとしている。


「先生、今年こそは受かって見せます。ご安心下さい」

「先輩、先生は辞めてくださいって言ってるじゃないですか」

そう、家庭教師の先生は、受験生の高校の後輩なのだ。

こういう地獄もあるのだなと思うと、久助は切ない気持ちになるのであった。


次のゲートが開き、アトラクションが始まった。

セットの中の男が通行人を相手に呼び込みをしている。


「お客さん、寄ってかない?うちは現役女子大生ばっかりで、飲み放題時間制限なしの3千円ポッキリだよ、入らない方がどうかしてるね!良心的な店でトラブルは一切なし。ウソだと思うなら角の交番で聞いてみな。さあ、だまされたと思って、入った入ったー!」

ポン引きの男に手を引かれて中年サラリーマンが中に入った。店の中は暗く、イカにもウサンくさい店だ。どう見ても現役女子大生に見えない中年の女性が横に座ったかと思うと男に声をかけた。

「いらっしゃい、お客さん。今日はお1人?私、こう見えても現役の女子大生よ。ほら、学生証!」

『亀田山大学夜間部』と書いてある。

確かに嘘・・・・・・、とは言えない。男はだまされたと思ったがもう遅い。

ビールが1本と、ピーナツが一皿お盆に乗せられて運ばれてくる。

どうせ金を払うならビールくらい飲んで帰ろうと男は考えた。

男がピーナツを一粒つまみ、口に運んだ瞬間、カウンターの隣の席に座っていた客が立ち上がった。

「じゃあマスター、そろそろ帰るから勘定してくれる?」

マスターが誰にでも聞き取れるようなはっきりした口調で応えた。

「いつもありがとう御座います。ビール1本と、ピーナツ1皿ですね。お酒は飲み放題3000円、おつまみが1皿50万円、消費税は出血大サービスでいりません。合わせて50万3000円になります」

「ごちそうさま!」客は苦情の一つも言わずに財布から50万3000円の金を払って出て行った。その客はモチロン、店とグルのサクラである。

飲み放題3000円は間違い無い、が・・・・・、つまみについては聞いていなかった。

はめられた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

男が慌てて立ち上がろうとした瞬間、マスターが店の出口に立ちふさがった。

男は、そんまま腰を抜かし、すわり小便をする・・・・・。『聞いて極楽、見て地獄』だ。


その後、伝統的な地獄が続いた後、みやげ売り場『冥途のみやげ』へと到着した。

「さあ皆さん、この辺で一服して、買い物を楽しんで下さい。集合は30分後です。はい、解散―!」

「ねえ、ねえ、久助。せっかく来たんだから何か買っていこうよ」


みやげ物売り場をのぞいてみると、少しグロテスクなパッケージのモノが並んでいる。『閻魔印・抜かれ舌』と書かれた包みを手にとって原料の欄をみてみると『牛肉(舌)・砂糖・ミリン・保存料・・・・・』と書かれている。どうやら、牛タンの佃煮のようだ。『三途川印・六文銭饅頭』というのもあるな。その姉妹品に『三途川印・河原の石』というのが置いてある。それにしても、総ての商品に『Made In 冥途』て書いてあるなんて・・・・。


そうこうしている内に、時間がなくなってきた。気がつくと結構な量になっているのに気づいた二人は宅配便を利用することにした。『冥途の飛脚』である。そう云えばさっき『女殺し油の地獄』というアトラクションがあったっけ、と思い出す久助と波留であった。


「さあ、皆さん。最後のコーナーです。今までは大変でしたが、ここからは、大変楽しい世界に突入です。ここからは『極楽の國』でございます!」

ゲートが開き、急に周りが明るくなった。花が咲き、蝶が舞い、鳥が囀る世界。日差しは心地よく、爽やかな風が吹いている。バスが少し進むと広い池の中央にお釈迦さまらしき人物が蓮の葉の上に座っている。よく沈まないものだと関心しているとお釈迦さま、バランスを崩して、ドボンー。照れ隠しで頭を掻くお釈迦さま。一同大笑いである。パンフレットを見ると『池に落ちるお釈迦さま』と写真入りで紹介されているではないか。お笑いの要素もふんだんに盛り込まれているのだ。


「さあ、皆さんー!ここで自由行動です。『極楽』をご堪能ください。キリスト教徒の方とイスラム教徒の方は『天國』のコーナーもございますので、併せておくつろぎ下さい。では、集合は1時間後です。解散ー!」

池のそばで寝転ぶと、二人はウトウトしだした。『極楽』の風は春風のようで心地よく、いままでの緊張が一気にほぐれたのだろう。ものの5分もしない内に昼寝をし始めた。

二人は夢の中で蝶になり、花の周りで遊んだ。『胡蝶の夢』のように人間の自分が蝶の夢を見ているのか、蝶の自分が人間の夢を見ているのか判らなくなった。

ふと目が覚めて時計を見ると、5分しか経っていない。安心してもう一眠りすることにした。

再び蝶になり飛んでいると桃の花が咲き乱れているのだ。ただ花が咲いているだけなのにこんなに気持ちが良いのは何?・・・・・・。そのまま、1年でも2年でもそうしていたい気分だ・・・・・・・・。・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・。

時計を見ると、まだ40分もある。

二人はお互いの顔を見つめた。『極楽』は、何事もなく平和すぎて何だか物足りないような気がした。

でも、本当の幸せってこんなものかも知れないと思う二人であった。

[完]



[14] 大型テーマパーク小説・地獄めぐり(前編) ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:16 [URL]
「ねえ久助、今度の日曜、ヒマ?」

波留からの電話が掛かったのは、金曜日の夜だった。

「うん、別にいいけど」

久助は、冷蔵庫からビールを取り出して一口飲んだ。

「地獄めぐり行かない?」

「ああ、今度オープンした『地獄ランド』のことか」

「そうそう、幸子がさあ、先週の日曜行って来たんだよ。超刺激的なんだって!」

『地獄ランド』は文字通り『地獄』をテーマとした遊園地で、生きながらにして地獄を体験できるテーマパークとして開園以来、超満員の大人気スポットなのだ。


吉野久助と田島波留は高校時代からの恋人で、長すぎる交際期間のせいか、倦怠期に差し掛かっていた。波留にしてみれば、少しでも刺激のあるデートをしてみたいのだ。


「えー、皆さん。『地獄ランド』へようこそ!私が、本日皆様のお相手を勤めさせて頂きます棚田徳三郎です。どうぞ、よろしく。さて、当テーマパークはバスに乗って園内を一周するサファリパーク形式のアトラクションとなっております。バスの出発後は、途中退場出来ませんので、気の弱い方は今のうちにご辞退下さい。ヨロシイですねー!」


バスがスタートして、最初のゲートが開かれた。

「右手をご覧下さい。白い経帷子を左前に着た人がゆっくりと水の中を渡っていくのが見えるでしょうか?三途の川でございます。皆様おなじみの光景でございます。河原では、石を積む幼子と、鬼とのハテシナキ戦いが繰り広げられております」


第二のゲートを通ると、冥界の府が再現されていた。

ちょうど、冥土での裁判の最中だった。

『お前の言っていることは本当か?』

『もちろん本当でございます』

『では、閻魔帳を見てみよう。どれどれ、お前の証言はすべて嘘だな。罰として舌を抜くぞ。舌を抜いた後で早口言葉が言えたら舌を返してやる』

死人は鬼に舌を抜かれて鮮血をたらしながら声にならない声で早口言葉をしゃべった。

『ああうい、ああおえ、ああああお(なまむぎなまごめなまたまご)』

『はい、だめー!』

死人は鬼に連れられて次の地獄へと消えていった。

ツアーの一同から笑い声が上がった。

「面白いね、久助!それにしてもあの口、すごかったねー。リアルでさー、正直言って少しびびっちゃった!音響もすごいよね、おどろおどろしくてさー、すごいよねー!」

確かにリアルだ。舌を抜かれた死人の形相といったら、この世の者とは思われなかった。久助は少し顔を青ざめていたが、すっかり興奮している波留には気がつかなかったのだ。


第三のゲートを抜けて、進むと、なんとも言えず生臭い匂いがするのだ。

「さあ、血の池地獄でございます。ここは元々温泉が湧いていた処で、この地獄発生の地でございます。生臭い匂いの元は、温泉の成分のイオウの匂いと、世界最大の花、ラフレシアの花の香りの成分を科学的に分析して合成したものでございます」

血の池では死人達が悲鳴を上げながら真っ赤なお湯に浸かっているのだ。

さすがの波留もこの匂いにはまいった様で、言葉数がすくなくなってきた。


第四のゲートを越えると餓鬼地獄だった。

ガリガリに痩せた死人が美味そうな握り飯を見つけて食べようとすると握り飯は炎となって消えてしまう。死人はそのたびに切ない表情をするのだ。それにしてもリアルだ。映像ではなく、実演なのになんで握り飯が一瞬に炎にかわるのだ?棚田の説明によれば、有名なマジシャンの指導によるもので、詳細は企業秘密とのこと。それにしても、どの『地獄』もリアルでまるで本物を見ているようなのだ。もちろん本物をみたことのある者なんか誰も居ないのだが、リアルというのは、忠実に本物を再現したものではない。あくまでも、本物っぽく見えるだけで、時には本物よりもリアルに感じるものさえあるのだ。波留を見ると、最初の元気はどうしたものか、すっかり青ざめている。これはまずいと思っていると、どうやらお昼のようだ。


「ねえ、久助。考えていたよりゼンゼン凄いよね。波留疲れちゃった。でもよかった、お昼休みで。午前の部でこんな凄いのにさー、午後になったらどんなんだろうね」

食欲を無くしたのかツアーの一行は、ほとんどの人が昼食を残した。

久助と波留も半分食べるのが精一杯だった。


午後になり徳三郎が戻ってきた。

「さあ皆さん、午後の部の始まりですよ。トイレはあらかじめ済ませて下さいね!」

再びバスに乗り込むと第5のゲートが開いた。

今までの『地獄』と一転して、現代の街角のようなセットが現れた。

「さて皆さん、今度は『生き地獄』ですよ。今から起こることはフィクションですから、心配しないで下さい。念のため申し上げますと、先週の失神者は3人でした」


棚田がしゃべり終わると突然、ヤクザ風の男が街角のセットに乱入してきて、イキナリ暴れ出した。手には刃渡り90センチの日本刀を持って、手当たり次第にセットの中の通行人に切りかる。次口と噴水のような血しぶきが上がり、まさにこの世の地獄だ。

あまりの悲惨さにツアーの中の中年の婦人から声が掛かった。

「あのー、棚田さん。私とてもじゃないけど、付いて行く自信がありません。悪いけど次のゲートで降ろして」

「お客さん、それは出来ません。あなただけのためにバスは止められません」

「あとどの位我慢すればいいの、気が狂いそうよ。お願い、もうすぐ終わるわよね、終わると言ってー!」


「残念ですが、まだまだ終わりません。ここはホンの『地獄の一丁目』です」


[完]



[13] 大型不眠小説・羊を数えれば・・・・・ ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:15 [URL]
吉野久助は夕方になってからコーヒーを飲んだことを後悔していた。

いつもならトックに舟を漕いでいる時間なのにアクビの一つも出ないのだ。

「仕方が無い。読書でもするか」久助は書棚に行ってなるべくツマラナイ本を選んで机の上に置いた。

「安山岩の形成に関する考察とその問題点」と背表紙に書かれたその本は、大学時代の友人で現在、亀田山大学教授の棚田徳三郎から寄贈されたものである。

地質学は久助の専門ではなく興味もない。書庫の中でほこりをかぶったままの本が急に不憫に思えて手に取ったのである。

「『形成に関する考察』はわかるが『問題点』って何なんだ。あいつは昔から変わり者だったからなぁ」と独り言を言いながらページをめくる。予想は的中した。面白くない、と、言うか、全然判らないのだ。あまりのつまらなさに眠くなる前に腹が立ってきた。腹立ち紛れに電話で徳三郎をたたき起こそうと思い、電話番号は何番かと思ったが、電話帳に載っていない。そうだ、年賀状になら書いてあったなと気が付き、書斎の中を行ったり来たり。ようやく探し当てて、年賀状を見ると、書いて無い・・・・・・・・・・。

時計を見るともう深夜の1時35分。こんなことをしている場合ではないのだ。寝なければと思い再び布団に入る久助。

が、一向に眠れず、目覚し時計の秒針の音だけが聞こえる。

「やれやれ、酒でも飲むか」と思い冷蔵庫から氷を出してウイスキーを注いで一口啜る。そう言えば冷奴があったなと冷蔵庫を開け、豆腐を出して、鰹節はどこだと探したのが最後、見当たらない。間違いなくあったはずだとクマ無く探したが見当たらないので、頂き物の本節があったなと桐の箱を開けたまではよかった。削り器の歯が錆びているのだ。砥石で丹念に研ぎ始め、気が付くと2時を回っている。

こんなことをしている場合ではないのだ。寝なければと思いミタビ布団に入る久助。

が、一向に眠れず、秒針の音がウルサイので電池を外したら今度は静か過ぎて耳鳴りがして眠れない。

「仕方が無い。羊でも数えるか。羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹、・・・・・・・・・・・・、羊が352匹。マズイ、3匹も足りない。狼にでも食べられたのか?もう一回数えなおしだ。羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、・・・・・」

久助の職業は「羊飼い」で、近隣の養羊家の情報では、最近狼が出没するとのことである。広々とした草原で何が悲しくて、延々と羊の数を数えねばならぬのか?

神よ、迷える仔羊、吉野久助に安らかな眠りを!

[完]



[12] 大型靖国問題小説・公式参拝 ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:13 [URL]
8月も上旬に差し掛かり、吉野久助首相の近辺では、靖国神社参拝問題が波紋を投げ掛けていた。

「総理は首相就任以来、終戦記念日に一国の総理大臣として公式に靖国神社に参拝すると明言して来られましたが、近隣諸国からの軋轢が生じようとも、そのお考えに変化はありませんか?」
 質問に立ったのは野党第一党の党首、棚田徳三郎である。

「戦没者の慰霊は、総理としての務めであると考えております。我が国に限らず、国家元首および首相が戦没者の慰霊を行うのは、ごく自然なことであり、公式参拝、私的参拝と論議されること自体、私には無意味なことではないかと思います。吉野久助は総理大臣であり、国会議事堂内ではもちろん総理大臣だし、家でうたた寝してよだれを流しているときも総理大臣なのであります。新聞には1日の行動が分刻みで発表され、公人だ、個人だという区別はありえない。それを区別しなさいということ自体に無理があると思います」

「靖国神社はA級戦犯が合祀されているので、総理が参拝するということはA級戦犯の戦争責任をあいまいにし、戦争賛美、軍国主義化につながるのではないかという意見がありますがいかがですか?」

「確かにA級戦犯が合祀されていることは認識しております。が、しかし、考えても見て下さい。納豆を食べようとすればネバネバも一緒に食べるのが普通だ。ネバネバが気持ち悪いからと言って、別にしてくれという訳にはいかないでしょう」

「首相、納豆とA級戦犯では例えが合いません」

「では、例を変えます。棚田さん、あなたはスイカはお好きですか?」

「夏の日本を代表する果物であるスイカが嫌いな者はあまりいませんが、それが何か?」

「では、スイカの種はいかがかな?」

「あれは、正直言って嫌いだ。食べると盲腸になるという話を聞いたことがあるが、それは迷信としても、なんとなく食べたくないもんですな!」

「では、八百屋でスイカを求めるときに、スイカは欲しいが種は要らんといって買いますか?」

「それとこれとは話が違う!」

「では、またまた例を変えます。ベニスの証人をご存知か?自分の胸の肉を借金のカタにした男が金が返せないで、胸の肉を切り落とすことになる。しかしながら、その借金返済訴訟の判決がインチキで、胸の肉は切り落とすことはかまわないが血を一滴たりとも流すことはあたわずという。私に言わせれば人に金を借りておいて踏み倒すなど言語道断、これだから不良債権が片付かないんだ。郵政三事業にしてもしかり。国民から集めた貯金が湯水のように使われ、大赤字になっていても知らん顔だ。赤字の穴埋めは結局国費でまかなうしかない。赤字国債を発行すれば良いというけれど、本質的にはサラ金と同じだ。今はそれでも良いが、50年後、100年後の生活を考えるとそれではいかんのだよ!本当の政治とはわれわれの子供の代、孫の代を見越して行うものですよ!今の政治は一部の者の利権だけを優先しているに過ぎない!本題にもどるけれど、あなた方、野党から出ているA級戦犯の分祀についてだけれども、私はまったく考えていない。靖国神社は、国や政府の管轄の神社ではない。独立した法人であります。国や政府が干渉して『A級戦犯は分祀しなさい』と言おうものなら、それこそ政教分離の原則を踏みにじることになる、そう思いませんか?護憲、護憲と言う割には、肝心なことがわかっていなんだよ、あんたがたは!」

「論点をすり替える気か?そもそも、靖国問題に対し、諸外国の対応はどうするのかと言う質問に対し、何の答えも出ていないじゃないか!」
棚田徳三郎党首が興奮して、目をムキ、口をとがらせはじめた。まるで火男(ひょっとこ)である。徳三郎が火男に転じたときに、質問の割り当て時間が終わってしまった。

火男の次は、おかめこと野党第二党党首の田島波瑠の質問の番だ。

「吉野首相に提言致します。近隣諸国からも、国民のほとんどからも懸念されている靖国参拝を止めて、宗教色の無い千鳥が淵霊園を慰霊の対象として参拝するというのはいかがでしょうか?」

「あなた方野党は、神道だからという理由で靖国を敬遠するが、歴代の首相は正月に伊勢神宮に参拝しているのですよ。伊勢参拝は問題にならないのに、靖国だけが問題になるのはおかしいじゃありませんか?それに『国民のほとんどからも懸念されている』とあなたは言うが、あなたは、大手新聞各社が行っている世論調査の結果を知らないんですか?私の支持率は平均74%、靖国公式参拝に関しては69%の人が支持しているのですよ。あなたが個人的に発行しているミニコミ誌での調査では、2%という結果だそうですが、そんなものは新聞とはいえない」

その後、何度かやり取りが続き、おかめこと田島党首は興奮し、お約束通り、ほっぺたを膨らましまさしくおかめになった。質問時間の割り当てが終わり、その日の国会は終了した。

その日の国会中継は、視聴率6.5%という前代未聞、空前絶後の人気ぶりである。吉野久助が首相に就任して以来『変り者(吉野久助)VSおかめ(田島波瑠)・火男(棚田徳三郎)』の文字が、週刊誌の見出しとして躍っているのだ。

諸外国は8月15日の参拝は認めないというし、野党だけでなく、党内の反主流派はそれを追い風に攻撃をしてくる。しかし、8月15日に公式参拝をすると明言した以上、引き下がれない。

結局、熟慮の末、吉野総理大臣の選んだ道は、8月13日に前倒しして参拝するという方法である。諸外国は8月16日以降にずらす様に要請しているという。要求通り後ろにずらせば外国からの内政干渉を受け入れたことになるが、前倒しならば、丸呑みした訳でなく、一応、諸外国の対面も立つ。法事だって、日程の関係で日曜日にすることがあると考えれば、理由もつくというものだ。

ゴタゴタはあったが、一連の靖国問題は、このようにして決着がついたのであった。

当の8月15日であるが、キティちゃんのお面をかぶり、SPと思われる20〜30人の警護に囲まれた政府の要人らしき人物が参拝する姿が目撃されているが、首相官邸からのコメントは次の通りであった。

『内閣総理大臣 吉野久助の行動に関しては官邸の関知するところであるが、キティちゃんのお面をかぶった不審な人物の行動まで管理する義務はない。もちろん、おかめや火男、宇宙人のお面をかぶった者が参拝しようとも、関知しない』
ちなみに、宇宙人というのは民主党党首の鳩山由紀夫氏のニックネームである。

[完]



[11] 大型エンドレス小説(ほぼ実話小説)・ドナドナ ぺんぱぱ 2002/06/03(Mon) 19:11 [URL]
その出来事はある梅雨時の夜に始まった。

「ママー、お歌うたってー」
蒸し暑くてなかなか寝付けないのだ。
「そーね、何にしようかなー」

母が選んだのは「ドナドナ」である。
家で飼っている子牛を市場へ売りにいくという悲しい歌である。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪ (著作権の関係で歌詞は省略) ♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「もう一回歌ってー」
「もう一回歌ったら、おネンネするのよ」
「はーい」
ここまでは良かった・・・・・・・。

「ママー、牛さんの赤ちゃんどうなったのー?」
「牛さんの赤ちゃんねー、市場で売られていったのよ」
すると突然、波留が泣き始めたのである。
「牛さんの赤ちゃん、ママに会えなくなって可愛そう。エーン、エーン・・・・・・・・・・・・・エーン」

母は焦った。このままでは波留が寝付かなくなってしまう。母は子牛の運命の路線を変更する事にした。子牛は隣の牧場に遊びにいって、楽しく遊んだあと、お母さん牛のところに戻って来ることにことにしよう。それで行こう、そうしよう。

「牛さんの赤ちゃんね、隣の牧場に遊びにいって、楽しく遊んだらまた戻ってくるよ。だからおネンネしましょ!」
「ふーん、牛さんの赤ちゃんママに会えるのか、よかった。ママー、マキバってなあに?」
「マキバってね、牛さんたちが草を食べたり、遊んだりするところよ」「ふーん、牛さんの赤ちゃん、マキバで遊ぶのか。よかった!」「そうだよ、牛さんの赤ちゃんマキバで遊んでいるから心配しないで、おネンネしましょうね」路線を変更したことが成功したようである。ここまでも特に問題はなかった・・・・・・・・・・・・・・ように見えた。

それからしばらくして、波留が話しかけた。

「ママー、かゆい!」見てみると蚊に刺されたようで、手の甲が膨らんでいる。
「かゆいよー、お薬付けてー」「はいはい、付けますよ」
薬というものはほとんどの場合、効果が現れるまで時間差があるものである。
「ママー、お薬付けてー」「もう付けたよ。もうすぐ痒くなくなるから我慢して」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ママー、お薬付けてー」「もう付けたよ。もうすぐ痒くなくなるから我慢して」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ママー、お薬付けてー」「もう付けたよ。もうすぐ痒くなくなるから我慢して」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このやり取りが何度か続いたあと、塗り薬の効果が現れたと見えて、波留が静かになった。
やれやれ、これでうまく寝付いてくれれば・・・・・・・・・・・・。

沈黙を破ったのは波留の一言だった。「ママー、お歌うたってー」さっきの失敗を繰り返してはいけない。母はそう思った。今度は楽しい歌にしよう。楽しそうな歌を選んで歌い始めた。そうだ、「森のクマさん」にしよう。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪ (著作権の関係で歌詞は省略) ♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「ママー、牛さんの赤ちゃんの歌がいい」まずい、元に戻ってしまったじゃないのよ!言い出したら後に引く波留ではない。再び「ドナドナ」が始まった。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
♪ (著作権の関係で歌詞は省略) ♪
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「牛さんの赤ちゃん、ママに会えなくなって可愛そう。エーン、エーン・・・・・・・・・・・・・エーン」
母は焦った。このままでは波留が寝付かなくなってしまう。
「牛さんの赤ちゃんね、隣の牧場に遊びに行って、楽しく遊んだらまた戻ってくるよ。だからおネンネしましょ!」
「ふーん、牛さんの赤ちゃんママに会えるのか、よかった。ママー、マキバってなあに?」
「マキバってね、牛さんたちが草を食べたり、遊んだりするところよ」
「ふーん、牛さんの赤ちゃん、マキバで遊ぶのか。よかった!」
「そうだよ、牛さんの赤ちゃんマキバで遊んでいるから心配しないで、おネンネしましょうね」
安心したのか、しばらく波留は静かだった。

その沈黙を破ったのは波留である。
「ママー、暑い。団扇で煽いでー!」
「はいはい、暑いのね、わかったよ」母は、手元にあった団扇で煽ぎ始めた。
「その団扇ダメー、波留の団扇使ったー!エーン、エーン・・・・・・・・・・・・・エーン」
良く見ると、黄色いピカチューが描かれているじゃないのよ!

虎の尾を踏むごとくの修羅場である。

泣くのも体力の要るものである。おサルの模様のついた黄色い団扇で煽いでいるうちに波留は静かになった。

その沈黙を破ったのはモチロン、波留である。
「ママー、お茶ー!」おお泣きしたので喉が乾いたのだろう。グラスにほうじ茶を注いで飲ませると、急に波留が泣き出した。
「牛さんの赤ちゃん、ママに会えなくなって可愛そう。エーン、エーン・・・・・・・・・・・・・エーン」
「牛さんの赤ちゃんね、隣の牧場に遊びにいって、楽しく遊んだらまた戻ってくるよ。だからおネンネしましょ!」
「ふーん、牛さんの赤ちゃんママに会えるのか、よかった。ママー、マキバってなあに?」
「マキバってね、牛さんたちが草を食べたり、遊んだりするところよ」
「ふーん、牛さんの赤ちゃん、マキバで遊ぶのか。よかった!」
「そうだよ、牛さんの赤ちゃんマキバで遊んでいるから心配しないで、おネンネしましょうね」そうしている間に、静かになった。かすかに波留の寝息が聞こえる。やれやれ、なんとか寝付いたようだ。良かった、良かった・・・・・・・・・・・・かに見えた。

その沈黙を破ったのは1本の電話だった。
「夜分遅く失礼します。亀田山証券の棚田徳三郎と申します。この度このあたりの担当になりましたものですから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」その後、どうなったかは、怖くて書く気になれないのであった。


[完]


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