〜パキスタン編〜
パキスタン入国後、ムルタンで初めて取った宿のシャワールームで、
俺様はある一つの重大な決意を胸に秘めていた。
それはネパールでも、インドでも、ここパキスタンでも、
さらにこの先行くイラン、トルコでも現地人にとってはごく当り前の事で、
旅人である自分も今後それをやっていかないと実に不便である。
今までためらってはいたが、遂にそれを実行する時が来た。
相当な精神力と度胸無しでは、到底成し遂げられない行為なのだが、
それは一体何か・・・?
ド ン
第十四話
紙が有ってもウンコは手で拭け!?の巻
便器の傍らに置かれた原始的装置
今まで観光地の宿にあった大抵のトイレは、
トイレットペーパーを流せるようには出来ていない為、
それを捨てる目的でクズ篭が備え付けられていた。
しかし観光客の少ないパキスタン、イランとなると当然そんな気配りは無く、
唯一存在するのは急須に形状の似たプラスチック製の容器、
携帯型手動式排泄洗浄マッスィーン・
「尻ポットじゃばじゃば君」
(挿絵参照)だけである。
この人体工学に基づく超ローテク装置の使用方法は
付属の取扱説明書によると(付属してません)、
(1)まず、用を足して下さい。
(2)近くの蛇口から水を中に入れます。
(3)聖なる右手で尻ポットざぶざぶ君を持ち、
お尻の割れ目の上辺りから水を注ぎ出します。
(4)同時に不浄なる左手で股下から肛門を適度な力加減で撫で回します。
(5)それが終ったら、腰を鋭く上下に振り、水を切って下さい。
(6)ズボンとパンツを履いたら、最後に良く手を洗いましょう。
・・・なるほど。
右手と左手の概念はヒンズー教のものであるが、右手によって使用するこの器具は、
言わば神々の聖なる杯といったところか。
それは違うだろ。
(ユースケ・サンタマリア風)
とにかく、いよいよ時は迫って来つつある。精神的にも肉体的にも。
さよなら我が清らかなる左手!
使用開始。
・・・あ・・・あ・・・
ちょっと気持ちイイカモ・・・。
気を取り直して、明日発のフライングコーチを予約の為、
ヒデさんと共に再びターミナルへと赴く事にする。
まずはやはり腹ごしらえを近くの食堂で行うが、
ラホールの時と同じ様に油っこいカレーとチャパティーしか無く、味もマズい。
どっちにしてももうウドンくらいしか食べる気がしないが。
(byエキセントリック少年ボウイ)
今まで日本食が食いたいとか、日本人は白いメシだとか、日本の朝はミソスープだとか、
そんな愛国心溢れる味覚の探求はまるで感じた事が無かったが、
今回ばかりは流石の俺様も参った。
頼むから何かサラサラしたものを持ってきてくれ。
素うどん、又はお茶漬けでも出てきようものなら、
500ルピー位払ってしまいそうな気がする。
例のものはばっちりサラサラなのだが。
食堂を出て次にする事は、ターミナル行きのミニバス探しである。
何故楽なリクシャーを使わないかというと、前にボラれそうになったからでは無く、
単なるツルセコパワーである。
ミニバスは一定のルートを常に巡回していて、値段はリクシャーより格段に安い。
それを見つけ出し乗り込むと、
車内には基本容量を遥かに越えた現地人がぎっしり詰め込まれ、
極炎天下の元、蒸し風呂どころか地獄風呂だ。
そりゃ安いのも頷ける。
そんなちょっとしたバーニング・エクスプレスに揺られていると、
暫くして突然後ろから大きな破裂音が鳴った。
どうやらパンクの様だ。
現地人の落ち着き具合からすると、こんなのはあまり珍しい事ではないらしい。
タイヤの交換は10分程度かかり、その間も車内に寿司詰めであった。
まさにドキドキ地獄風呂。
最もそう感じているのは自分達日本人だけなのかもしれないのだが。
ミニバスはいたる所で人の乗り降りがあるから、当然その分時間がかかる。
結局、ターミナルへ到着したのは、リクシャーで十数分だったところを
30分以上かかってであった。
取り敢えず売店で新しいミネラルウォーターを仕入れ、咽の渇きを潤す。
今は冷たくて旨いが、1時間もすればペットボトルの中でお湯になってしまうだろう。
そこからすぐ近くに小屋の様なバスチケット売り場があり、
明日のクエッタ行きを2枚予約する。
その方面へのフライングコーチは1日1本しか無いらしく、
強制的に午後4時発のものとなった。
呆気ないが、ここでの用はこれで終りだ。
再びミニバスに乗り込み、宿へと帰る。
何故楽なリクシャーを使わないかというと、
全く以て単なるツルセコパゥワァーとしか言いようが無い。
新たなる旅人としての悦び喜びを修得し、
さらにディープな世界へとはまってしまった今日この頃。
交通費を安く済ませたり、ホテルをシェアしたりとか、
最近は今の生活が自分にとって随分馴染んで来ている。
トイレの事もそうだが、旅というものに慣れていく程、
確実に日本人の平和な日常から遠ざかっている。
自分としてはあっさり観光・後腐れ無い人付き合いを心掛けているのだが、
それでも長期旅行者の持つ独特の匂いはまとわり付き消す事は出来ない。
そういえば髭も長い間剃っていないし、肌も既に日本人離れした焼け具合だ。
見た目に浮浪者ムード全開と言える。
ただ、いつからか身体に溶け込んでしまった匂いを嫌いつつも、
同じ匂いを持った仲間を探してしまうのもまた事実ではある。
香港から旅をしているヒデさんは、
これからやはり自分と同じ様にヨーロッパを目指すのだが、
実は彼も、今日初めて尻ポットばしゃばしゃ君を使ったのだった!
同じ様な行動をし、同じ様な環境に置かれると、
考えまでもが似てしまうのだろうか。
ここに汚れた仲間誕生。
共に行き着く所まで行くしか無い様である。
因に旅人独特の匂いというのは、決してウンコの匂いという意味では無い。
いや、中には含まれてるかもしれんけど。