第25回嘘競演　作品展示室 [嘘競演トップ] [投稿する] [新規順リスト] [番号順リスト] [最新作品]  [感想(ラウンジ)] [投票結果] [使い方] [クロニクル] [検索] [お題]

■独走スクープ！そのとき激しくも新鮮な　激愛伝説！
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
その瞬間、また新たなレジェンドが「ドトール北心斎橋6号店」で生まれた。


レジ横に常設された、ハガキ2倍強ほどの大きさの小冊子
「ドトールコーヒー　シーズンキャンペーン・リーフレット」。
この1冊を引き抜くまでに、店頭で3時間に渡る人前結婚式を開宴したのは、西宮市の
山本信行さん（31）美紀子さん（28）ご夫妻。
オーディエンスの喝采と祝福を一身に受け、手と手をとりあいリーフレットを引き抜
く新たな夫婦は「はじめての共同作業」を、無事こなした。
美紀子さんはうっすらと泪すら浮かべていた。幸福の涙だ――。


大阪市中央区「ドトール北心斎橋6号店」。
近年この店内レジ横で繰り広げられる「ご自由におとりください」は、屈指の名所で
ある。
「USJよりも有名」口さがない大阪市民は、愛着をこめこう呼ぶ。
それほどまでに名の通った廉価コーヒーショップ店。それがここ「ドトールコーヒー
北心斎橋6号店」だ。

■「ああ！どうすれば！」単独インタビュー！ただれた愛におののく店長！
　美智子さま！雅子さま！
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
レジ横で
　『ご自由におとりください』
としたためられ、ぞんざいに立てられた販売促進用の印刷物たちがあった。その印刷
物の取り様の異変に鈴木貴之店長（当時）が気づいたのは、97年夏のこと。
「あの時のチラシは、確か、『アイスコーヒーサービスチケット』じゃなかったかと、
思います、10％offの。」
鈴木さんは、当時のチラシを見せてくれた。
「ほら。これです。
　このチラシを抜き取る時、わざわざクルリと1回転し、キメのポージングをしてから
抜き取るお客さまが、イヤに多いことに気づいたんです。ほら、フィギュアスケート
なんかのスピンみたいな。あんな感じで、クルリと回る…。」


やがて店は、「ご自由」なスタイルのチラシ抜き取りが常態化しはじめる。
ばく転、連続スピンはあたり前。ピンセットをおもむろにとりだし、つまみあげる客
が出る。ただの放屁など誰も見向きもしなくなった。
十八番をフルコーラス熱唱してのち、チラシをとりあげる客が増え始める。一糸まと
わぬあられもない姿になりキャンペーンチラシをとり、またいそいそと服を着て店を
出る客も、日にひとり二人ではなくなる。
当時のドトール北心斎橋6号店は、なにもせず「ご自由におとりいただく」ことは、自
由への冒涜といった雰囲気があったと、鈴木さんは懐古する。

■とめられない自由への愛！激ヤセ女王絶賛！不倫まみれ離婚またもや！
　嫁姑戦争完全保存版！冬は鍋！
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
噂が噂を呼ぶ。
「ご自由におとりくださる」さまを見るために通う常連客が増える。
チェーン内でも繁盛店にランクインされはじめる。
その間にもレジ横「ご自由におとりください」には、あらゆる「自由なとりざま」が
加熱し続けた。
自バンドのオリジナル曲を演奏するために、ドラムセットをセッティングするバンド
が来る。16時間の直立全身白粉パフォーマンスののち、チラシを抜き取る客が来る。
このときは、店内に喝采が沸いたという。
切腹を敢行しようとした初老男性には、さすがにスタッフが止めにはいった。だがオー
ディエンスからは「自由を妨げるのか！」と大ブーイングが起こり、その日は臨時閉
店を余儀なくされる。来客はみな「自由なとりかた」を心から望んでいたのだ。
「自由の開放区」と絶賛した評論家の取材が、さらに拍車をかけた。


かたや顧客回転率の向上が信条のコーヒースタンドでは、本社サイドで問題になった
ことが何度もあったという。
鈴木さんの後を引き継いだ田中正章店長（当時）は、顧客回転率アップのために、幾
度とはり紙を変えた。その回数は2度や3度ではなかったらしい。
「『お気軽にどうぞ』に張り替えたこともありました。今思えば、あれが「気軽なパ
フォーマンス」に拍車をかけてしまったのかもしれません。あの時すでにもう、“ご
自由に”の文脈の流れを変えることはできない状況だったんですね。」
「そのあと、何、貼ったかな。ええっと…あ、『よろしければ　お持ち返りくださ
い』っていうのも、貼りました。これはお客さまからの非難が集中しました。“よろ
しいかどうかは、中を見なければ、わからないじゃないか！”って。これもすぐとり
はずしましたね。」
「私も数多くの店をこなしました。でも、あの店だけだったですね。
　『ご自由に』に、あれだけきちんと手応えのあった店は。」
田中さんは少し懐かしそうに、そう言って微笑んだ。


「ドトールコーヒー北心斎橋6号店」。
今日もオフィス街の一角で、自由を謳歌する歓声があがっている。
ここでの「ご自由におとりください」は、果てしなく、重い。

新生児に「自由」と命名しようとした両親に対し、出生届の不受理という対応をした港区
職員は、その理由を、「高齢化社会の到来により、二十年後には１人で１４．７人の高齢
者を支えなければならない新生児に、その名前は不適当であると判断した」と説明してい
る。

両親は、「不二雄（フジユ）」という命名で再提出。区も受理する模様。

付近住民の皆さんは、危険ですからすみやかに退避して下さい。
繰り返します・・・・

「何だか騒がしいな。ま、俺には関係ないことだ」
突然出向を言い渡されたのが三日前、まあ体の良いクビ宣言だ。
20年間真面目に働いてきた俺がなぜ・・・
辞表を出し会社を出た俺は、お台場に来て海を見ていた。
俺は長年使い慣れた古い大型電卓を、思いっきり海に放り投げた。
みみっちい復讐ではあるが、会社の備品を捨てて憂さ晴らしというわけだ。
哀れな電卓は、ささやかな水飛沫をあげて海中に消えた。

ゴゴゴゴゴ・・・・
突然海面が盛り上がり、そいつは姿をあらわした。
押し寄せる津波、逃げ惑う人々。俺も波にのまれ必死でもがいていた。
気を失うまでのわずかな時間に俺は聞いた、そいつの声を。

「お前が落としたのは、この金の電卓か？　それとも・・」

社団法人　日本物理耐性信用保証協会　環境試験センター　所有

◆製品名
【自由落下衝撃試験機（ＦＲＥ２−０６Ｓ）】

◆主な用途　及び　試験可能項目
　この試験機は、あらゆる物理製品の落下衝撃測定試験を、正確に行うことが出来
ます。試験は、物理製品単体又は、包装状態・梱包状態で行うことが出来、ＩＥＣ
規格、ＪＩＳ規格、ＭＩＬ規格、その他各関連内部規格などに対応しています。

◆特長
　この試験機は、正確にフラットな面での自由落下衝撃試験が再現できます。ま
た、角やエッジ部からの自由落下衝撃も正確に、言い訳なく行うことが出来ます。

◆主な仕様
・最大搭載重量　：　５８トン
・落下高範囲　　：　２８センチ〜成層圏
・最大供試品寸法：　Ｌ１８．８ｍ×Ｄ９．６ｍ×Ｈ（６．６ｍ−落下高さ）
・設置場所　　　：　ピサ（伊）　他

・準拠規格　　　：　ＡＳＴＭ　Ｄ−７５５／ＩＳＯ　２２４８
・試験規格　　　：　ＪＩＳ　Ｃ００４４　方法１／ＪＩＳ　Ｚ２００／
　　　　　　　　　　ＩＥＣ　６８−２−３２／ＴＥＳＴ＝Ｅｄ

◆オプション品
・りんご
・シャア
・岡田有希子　（いずれのオプション品も試験の再現性はありません）

※価格については別途お問い合わせ下さい。

統計によれば、文壇に発表された俳句のうち、
定型俳句の平均文字数は17.01文字。
大多数を占める17文字に対し、字余りと字足らずの影響が
相殺するためとみられている。

これに対し、自由律俳句の平均文字数は13.2文字で、
最短は4文字、最長は約2万文字となっている。

一般に短い作品が好まれる影響が出ているのだが、
この平均文字数に最も寄与しているのは
13.2文字の俳句を、実に26万句も発表した
東京都在住の並平　均さんではないかとみられている。

【informed consent】：［説明をうけた上での同意の意］

医師が患者に診療の目的・内容を十分に説明して、患者の納得を得て治療すること。
（情報提供：三省堂「デイリー新語辞典」）


〜〜〜〜〜〜〜〜

■［例１］

どっしーん！
（イテテ…）
ピーポーピーポー…。

＝＝＝

「…高所作業中に誤って高さ４０メートルから墜落、そのまま　地面に叩きつけられ、全身骨折。
　各部の症状を詳述すると、右大腿骨複雑骨折・左膝蓋骨剥離骨折・左右尺骨粉砕骨折・　仙骨破
　断骨折・脊柱圧骨折・肩胛骨断裂骨折・鎖骨撲滅骨折・胸骨体陥没骨折・前頭骨陥入骨折・下顎
　骨圧殺骨折…」

「ちょちょちょ、先生ェせんせぇ、オラ鳶だからむずかしいことはわがンねェ（イテテ…）、もち
　ッと噛みくだいて説明してケロ、　おー、イテテ…」

「そうですかそうですね。一言でいうと、全身の骨が『自由』になってますね」

「はぁ…（イテテ）」


〜〜〜〜〜〜〜〜

■［例２］

ハリヒ〜ハリヒ〜ハリホリヒ〜
ハリヒ〜ハリ匕〜ハリホリヒ〜
がっちゃーん！

＝＝＝

「…元々は風邪だと思われたんです。ウィルス性の感冒ですね。３週間超の入院にもかかわらず、
　症状の改善が見られないので精密検査を実施したのですが、その時点では異常は発見出来ません
　でした。いっこうに高熱が下がらない・深夜に大声を上げてうなされる・ところかまわず徘徊し
　周囲のモノを破壊し尽くす・夜尿症・寝ゲロ・異常性欲…、などの具体的な行動が発現するに至
　って、脳の精密検査を実施致しましたところ、牛海綿状脳症すなわちＢＳＥ、一般に狂牛病と呼
　ばれているモノですね、そちらを併発していることが…、」

「ちょちょちょ、先生ェせんせぇ、オラ鳶だからむずかしいことはわがンねェ（ハレレ…）、もち
　ッと噛みくだいて説明してケロ、ハリホリフ〜…」

「そうですかそうですね。一言でいうと、脳味噌が『自由』になってますね」

「はぁ…（ハリリ）」


〜〜〜〜〜〜〜〜

■［例３］

「どどど、どーゆーコトっよ！」

「…ッせーんだよアタイの勝手だろっクソババァっ！」

「なんだいっアンタ！　オヤに向かってその口のきき方はッ！」

「おうおうおう、テメェどのツラ提げてそんなコト言えるんでぇ！」

（バシ）

「イタイっ！」

「ふざけンなッ、いっチョコまえにイテェなんざぬかすねぇっ！」

（バシバシバシ）

「ちょちょちょオトーサンっ、蹴りはアカンて、つま先で蹴ったらアカンて！」


＝＝＝

「…『オメデタ』、ですね」

「…。」

「…◎」

「るせーンだよっンなこたぁハナっから承知で来てるんだ。オイラ鳶だからってバカにすんじゃあ
　ねぇ！　っンとかしろって言ってるんだよっこの腐れヤブ野郎が…！」

「そうですかそうですね。一言でいうと、お腹の中の赤ちゃんは『自由』な行為の結晶、というこ
　とですね。
　…？　…？　
　…あ？？？　　　…？　…？　　……どどど、ドーしたんです？
　そんなモノ持って、だだだ、ダメですよそんなモノ振り上げちゃ、アブアブアブ…、、、」


〜〜〜〜〜〜〜〜


【informed consent】：［説明をうけた上での同意の意］

医師が患者に診療の目的・内容を十分に説明して，患者の納得を得て治療すること。

（捕逸）
時に、医師・患者双方の妥協の上で説明及び同意の過程が省略されがちで、トラブルの元になって
いる。医学界で『自由』に代わる新しい表現を模索中である。

男「・・・・・私たちは宗教の自由を認めた憲法にのっとって活動しているのです。
　　え？いやいや、ノルマなんてありませんよ。主を信じればそれでいいのです。
　　はっはっは、いや、あなたは他のカルトの話などをお聞きになっていらっしゃる
　　から、『宗教は怖い』なんて思われるのです。まったく困り者ですね、カルトな
　　宗教というものは。私たちも迷惑してるんですよ、実際のところは。
　　大体ちゃんとした宗教というものは『いくらもってこい』とか『いくら払わなけ
　　れば天国に行けない』なんてことは言わないはずですからね。
　　私たちは主の教えに従っていくだけです。ですから特別な資格や選択された民で
　　ある必要はないんですよ。誰もが同じく主の教えを信じ、自分の考えをしっかり
　　ともっていれば、それで充分なんです。
　　ところであなた、お子さんは？あ、おひとり？お幾つですか？へえ〜、４歳のお
　　坊ちゃんですか？可愛い盛りですね。大丈夫、うちの信者のみなさんもお子さん
　　がいる方多いですよ。お子さん同士の交流もありますしねぇ。お子さんと一緒に
　　お時間があるときにでも、新しい仲間を増やすんだ、くらいの軽いお気持ちで回
　　っていただければ。ええ、ええ。坊ちゃんも新しいお友達が増えてうれしがると
　　思います。実際、年末にはバザーや降誕劇なんかもありますしね。
　　え？ああ、みなさん健康ですよ。運動も兼ねてますから。あ、誤解しないで下さ
　　いね、うちでは『手かざし』とか『神蹟』などはありませんからね。不幸にして
　　病気になられる方もおられますが、そういった場合はお医者様に行っていいんで
　　すから。はい、そういったことを禁ずる宗派もあるみたいですが、うちはいたっ
　　てそういうことには寛容なんです。まあ、寛容って言い方も変ですけどね。
　　で、いつからこちらにおいでになりますか？まあ、お仲間のみなさんと早く打ち
　　解けるためにもできるだけ早く皆さんと御会いしてお話でもした方が、お互いに
　　したしくなれるでしょうし・・・・・。
　　え？ははは、それは自由ですよ。私たちは別に制服があるわけじゃないし、時間
　　の拘束があるわけじゃないし、それはあなたが決めることです。気のあった仲間
　　と一緒に楽しく、そう『サークル活動』ののりでやってくださればいいんです。
　　私たちはみんな仲間として『ビラやパンフレットをまく自由』や『訪問して募金
　　をお願いする自由』や『相手の方に教義をお話する自由』、『住宅街を回る自由』
　　がありますから。うちはそういった個々人の自由を尊重する集まりなんです。ね
　　え、カラーで綺麗なパンフレットでしょう？けっこう好評なんですよ、これ。
　　お判りいただけましたか？じゃあここにお名前と住所をお書きくださいね。ああ、
　　これも『入信する自由』なんです。とにかく自由な教団、っていうのがうちの売
　　りなんですよ、ははははは・・・・・・・・・・・・。」

「阿蘇か汗カキカキ乗り合いバス走る」
「傘を借りてゆくか雨は上がったのか」
「笹を銜えた熊猫を見た珈琲にしよう」


　平成自由律俳句最後の巨匠と呼ばれた、烏賊刺墨乃鶴（イカサシ・スミノツル）が、遂に身罷った。享年
七十九歳。早過ぎた死であった。

　日本国内の直属門下生約三百人、その名は海外にも轟き、全世界合わせて孫弟子曾孫弟子を含めると約五
万人の門弟に恵まれた。その生涯は、彼の作風の根底に流れるユーモア精神と、飄々とした姿勢そのままに、
自由で何物にも捕らわれない闊達なものであった。


「田蹴り後楽園の照明灯に登る眠いか」
「泣かないようにマイクを借りて放つ」
「はっきりと見える死んで花見の団子」


　近代以降、自由律俳諧は風前の灯火であった。ゴホンゴホンとひとりで風邪をひいてみせたり、草をかき
分け山道を進んでうんざりしてみせたり、ミヤコ蝶々がひらひらと瓦屋根の上を越えてみせたりといった、
「哀切」「寂静」「茫然自失」を標榜する作風が、いったんは隆盛を極めたが、その頃をひとつのピークと
して、以降はただ徒らに、物悲しさや虚しさを呟くに堕ちていった。

　ただ「季語に捕らわれない」「五・七・五調に縛られない」事のみを以てして、自由律俳諧を背負って立
つ事は不可能であった。そんな中、彗星のごとく現われた烏賊刺墨乃鶴は、自由律の自由にすら捕らわれな
い、本当の意味での自由律俳句を完成させたと言われる。


「待てイヤ待て待ち待てぃ待て待てて」
「柔らかい牛投げ飛ばす後ろを向いて」
「ララと歌おうかと鏡割れながら訊く」


　自宅での死であった。その臨終を見取った者は無く、通いのお手伝いさんがその日の朝に初めて気付いた。
かしがましいマスコミは、「自由律の巨魁、自由詩（死）を選ぶ」などとセンセーショナルに書いたが、死
因に疑わしいところは無く、最期まで誰に迷惑をかけるでもない、あるがままの死であった。

　辞世の句は、無い。


「忘れないつもりの眼鏡３ホン鼻に跡」


　師匠の悲報に、いち早くその下に駆けつけたのは、六高弟と呼ばれる弟子たちであった。

・尾潟獅子門（オガタ・シシモン）、
・麹毬禰（コウジ・マリネ）、
・蘇東坡円（ソトウバ・エン）、
・外山田満朗（トビダ・ミツロウ）、
・典掛伍滋（ノリカケ・イツジ）、

　そして、

・保屯保陀（ホムラ・ヤスダ）、の六人である。


　遺言が公開され、故人の遺志により内輪だけの葬儀がひっそりと執り行われた。久しく文豪と冠するに相
応しい才能に恵まれなかった日本文学界は、政府に褒章の授与を働き掛ける一方、大々的な文学葬を催すこ
とを決定した。秋深き頃、所は日本武道館である。

　一斉に各界著名人に弔辞及び追悼文の寄稿が依頼された。六高弟にも追悼の献句要請が送られてきた。派
手な場を好まなかった烏賊刺墨乃鶴一門のこと、大袈裟な葬送に列席しなくとも、せめて追悼句のひとつも
寄せて欲しい、というのが葬儀委員長・堺正章からの依頼であった。


　早速、定時月例会の席で顔を会わせた六人は、推敲中の仮の追悼句を疲労しあった。

「天狼星墜ツ港寄る辺のモヤイ綱流留」
「母子別離の時もかくや港夕暮天狼星」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　尾潟獅子門

　自身が既に老境に差し掛かり、句苔むすと評される事の多い、尾潟らしい威風堂々とした追悼句である。


「クマちゃん思い出の中かくれんぼう」
「スパゲッティーのフォークも落ちる」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　麹毬禰

　六高弟唯一の女性で、殊更に軽みのある句風で名を為した麹らしい句である。


「しとしとシトシト曇る窓にひとすじ」
「霧雨煙ぶるお忘れ物はありませんか」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　蘇東坡円

　無口で頑固で六人の中でも堅物で通っている蘇東坡は、これまでにない雰囲気の句を準備し、その深い悲
しみを一層感じさせた。


「水不要の草もある枯れない時は無い」
「藁半紙に二重の花丸枯れて尚ハラリ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　外山田満朗

　現役の高校教師で、教科書に載らない師匠の句を若者に伝える最先鋒でもある外山田はこう詠んだ。


「忘れてしまいたい事は飛んで飛んで」
「君がいて僕がいたじゃありませんか」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　典掛伍滋

　マスコミの受けが良く、ＮＨＫ教育番組のパーソナリティーも務める典掛は、どこかで聞いた様な句を恥
ずかしげも無く披露した。


　ただひとり、六人の内で最も若い保屯保陀だけは、句を詠まなかった。
　兄姉弟子たちは、一斉に保屯の姿勢を責めた。

―「お前は師を悼む気持ちが無いのか」
「そんな事はありません」
―「ヤスちゃんは人一倍先生に可愛がられていたじゃないの」
「有難い事だったと思っています」
―「悲しみの感情の自然な発露を句に詠めば良いのだぞ」
「句作の起点は感情の高ぶりと自認しております」
―「天国の先生に謝意を表す事は私たちの義務ですよ」
「先生へは感謝の気持ちで一杯です」
―「オマエは句に自信が無いから詠めないんだよ」
「私の作句力云々は関係ありません」

　普段はいたっておとなしく物腰も柔らかい保屯保陀であったが、この時は頑として追悼句を詠む事に同意
しなかった。

「師に最も近かった我ら六人全員が揃って追悼句を捧げなければ、追悼そのものに意味が無くなってしまう。
保屯がどうしてもと言うのなら、句を詠まない理由を訊こうじゃないか。その理由が充分納得のいく物なら
良し、そうでないならば保屯の名でオレが代作を以て、その穴を埋める！」

　まあまあと他の四人に抑えられ、名を騙る案だけはひとまず引っこめたものの、保屯が理由を説明する責
だけは残った。しばらくはじっと口を噤んで何事かを考えていた保屯保陀であったが、やがて静かに語り始
めた。


「師を慕う気持ち、その死を悲しむ気持ちは誰よりも深く、いつまでも胸苦しく感じています。遺影に初め
てお目に掛かった時にも、身内の方と葬儀を取り仕切っている時にも、改めて全集を紐解き一句一句に思い
を馳せる時にも、在りし日の先生の一挙手一投足が思い出され、その影がありありと瞼裏に浮かびました」

「私が先生に初めてお会いしたのは、東京に記録的な大雪が降った年の大晦の夜、上野の停車場のホームで
した。吸えない煙草を斜めにくわえて、丸底眼鏡の奥から田舎出の書生に声を掛けて下さったのが始まりで
す。『おいキミ何の本を読んでいる？―――ラディゲか。肉体の悪魔、アレはイイ』　これが最初に聞いた
お声でした」

「俳句を詠もう、という気どころか、句のなんたるかにすらまったく興味の無かった私にとっては、先生は
俳句の先生では無く人生そのものの師でありました。その風貌、その立居振舞、その息遣いまで真似をしよ
うと思って、私は側におりました。死の瞬間、私は熊本に出張中でしたが、今にして思うと夢死の知らせと
でも言うのでしょうか、寝苦しい夜であったと記憶しております」

「今、自室でひとりになると、私はただ一言をのみ繰り返すばかりです。悲しい、ただそれだけを朴念仁の
ように繰り返し呟いております。悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、と。何を見ても何をしても、朝起きて
も床についても、食事を摂っても便所に座っても、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、と」

「悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい、悲しい。―――もし私が先生を追悼した句
を詠んだところで、この言葉以上のものは紡げますまい。自由律俳諧門弟の名の下に真の自由な心情と吐露
が為されたら、支離滅裂な追悼をも句と呼ばざるを得ません。大々的に執り行われる葬送の席で、ただこの
言葉のみを呟く私めなどがおれば、却って先生や皆さんにご迷惑をお掛けすることになりましょう。このよ
うな理由で、私は追悼句を作ることが出来ないのです」


　保屯は静かに話を終えた。高弟達は誰ひとり言葉を発しなかった。


―――

　晩秋の葬儀はしめやかに営まれ、推敲を重ねた五高弟の追悼句と、保屯の追悼句「悲しいよ悲しい悲しい
悲しいよ」が披露された。


　自由律俳諧の巨星も墜ち、日も落ち、各々の弟子達の名声も堕ちた。自由律俳句の火はこのようにして消
えた。門人の多くは人通りの多い繁華街の路上に座り、即興詩と称して墨と筆で思い付くままに書き殴り、
糊口を凌いでいるという。

宇野鴻一郎『濡れて起つ』

行動隊長さんったら、ほんとにすごいんです。皆さんの前で「我々が自由を得るための
唯一の手段は、もはや現行政府の打倒しかありえない!!」なんて立派なこと言いながら、
こっそり、あたしのスカートの中に手を入れてきちゃったり。

…あたし、思わず、自由っ、てなっちゃったんです。

■正義超人

あ〜心に愛を持ち、いかなる苦境逆境に直面しても決してあきらめず、友情パワーでお互いが
強い結びつきを持ち、例え２回や３回死んでも適当な理由を付けて必ずよみがえってくる超人
の総称。各界の超人から正義超人への転向はあり得るが、基本的に正義超人から悪魔超人など
への堕落は（少年誌の本旨上問題があるので）その可能性は皆無であり、正義超人軍は肥大化
の一途を辿ることになりがちである。各超人に固有のテーマソングが作曲され、アニメ演出上
多用されることでも特徴付けられる。主人公とその仲間たち。

例：キン肉マン・テリーマン・ロビンマスク


■悪魔超人

その行動原則は悪行を為すこと、と単純明快でありながら、街を破壊する・人類を恐怖に陥れ
る・正義超人に戦いを挑む、などの行為は一見一貫性があるように見えて、その実、目的がは
っきりしない（何がしたいのかよく判らない）仇役超人の総称。七人組や六人組になり、騎士
を名乗り、頂点に将軍を擁するなど、徒党として確固としたヒエラルヒーが形成されているか
のように思いきや、魔界のプリンスが将軍支配下（そのボディの一部）にいるなど、どっちが
どう偉いんだかまるで判らない矛盾を内包していることもある。ジャンプ敵役のインフラの権
化。

例：（初期の）バッファローマン・（初期の）アシュラマン・（晩年ギリギリまでの）サンシ
ャイン

類：悪行超人（悪魔超人以上に定義が曖昧な超人一味。流行りモノの一種）


■残虐超人

基本的に一匹狼で己の戦闘スタイルを極めることを至上とし、ストイックでクールな印象を与
えがちな可能性を秘めた超人の呼称。血を求め殺戮の限りを尽くし、テレビの生放送中でも放
送コードの有無を一切考慮しない鮮血溢れる戦いを繰り広げがちなため、一部熱狂的なファン
も多いが、群れをなさない為にどこまでが残虐超人でどこからが違うのかという線引きが非常
に難しい。スピンアウトしてアナザーストーリーが形成されてしまうほど人気が出る（？）こ
ともあるが（実例：「闘将!!拉麺男」）、そちらでは換骨奪胎され正義と道徳の人の様に描写
されてしまうという、悲しい側面を持つ。キーワードは「血」。

例：（キン肉マン登場時初期の）ラーメンマン・（父親の影響下にあった頃はかくやと思われ
る）ブロッケンJr.・（他にカテゴライズされ得ず仕方なくひとまずここに置かれた感の強い）
カレークック（←但し、キーワードは「皿」）


■完璧超人

まず手始めにその登場が派手で、おっコイツら何かやってくれそうだ、と期待させるだけの物
を持っていて、設定上「正義」とか「悪」とか「残虐」とかそれらすべてを凌駕し得ると言わ
れれば、思わず納得してしまうだけの迫力を持って作品世界の盛り上がりを最高潮に引き上げ
た張本（超）人の総称。しかし話が進むにつれ完璧の定義も揺らぎに揺らぎ、完璧だから負け
ないんだッ、という主張がどんどん空疎に聞こえてゆくという、ある意味赤っ恥をかいた軍団
でもある。完璧を名乗るモノほど完璧でない、という旧約聖書の警句を体現し、まずは疑って
かかれ、という教訓を貰ってボクラはオトナになった。非完璧超人（ごとき）の自爆で一掃さ
れる。

例：（自称）ケンダマン・（自称）スクリューキッド・（宇宙を漂っていてチラッと１コマか
２コマくらい見えたのはたぶん）ターボマン（だったと思う）


■自由超人

週間連載の宿命で、とりあえず強大な敵の一軍を描き表す時に、時間稼ぎのためにその後どう
転んでも対応出来る自由な解釈の余地を秘めた、マスク姿・マント姿・シルエット姿、などで
表現される一群の超人の仮称。そのマントの中にホンマにオマエ入っとったんかいっ、とか、
明らかに巨大化しとるやんケ、とかの突っ込みどころを数限りなく提供し、コアなファンを後
々まで楽しませることを主目的とする。正体を現わしたと思ったらさらにもう一度二度とオー
バーボディが剥がれ落ちることもあり、長時間の試合中における厚着の苦労が忍ばれる。時に、
ヒョヒョヒョ＞ケラケラケラ＞グフォッグフォッグフォッ〜、と笑い声まで変わる。

例：ヘルミッショネルズ１号２号・ｄｍｐ１号２号３号・キン肉マンフェニックスチーム１号
２号３号４号

（捕逸）または、その姿をまったく隠さず思いっきり露わにしながらも、翌週にはその姿を確
認出来なかった一超人の別称。

例：ケツマン・シリマン・プリプリマン