現代インストゥルメント大全

 
あらゆる楽器には、その音色を最大限に引き出す事の出来る天才達が存在する。
(天才指揮者カルニ・マグイッチ談)
 

 
第一回「トライアングルについての講義」
 
ピアノという楽器に「天才ピアニスト」がいて、
ギターという楽器に「天才ギタリスト」がいるように、
同じ楽器であるトライアングルにもやはり
天才トライアングラー」がいる訳です。
完璧なフォームで演奏を行なうのはもちろんの事、
コンサート会場の構造、その時の気温、湿度等、
音に影響するあらゆる要素を瞬時に計算した上で、
最高の音色を叩き出さなければなりません。
そして一流のトライアングラーはトライアングル本体の響きだけではなく、
それを叩いた「」の響きまでも頭に入れ、
2つの波動による「共鳴効果」を用い何とも言えない美しい調べを奏でます。
これはアラプスの清らかな雪解けの時だけに聞く事の出来る
混じりけの無い純粋な氷の破裂音にも似ていると言われ、
この域まで達した使い手は世界に数人しか存在しないそうです。
が、さらにその上の「超天才トライアングラー」となる為には、
努力だけでなく天性の素質が必要となります。
それは「トライアングル(ボーン)」と呼ばれる、
内部に特殊な空洞を持った上腕骨の事であり、
この骨の所有者が一度トライアングルを叩けば、
両腕全体が聞く者の心までも激しく震わせる偉大な神の音色を鳴り響かせます。
トライアングル骨を持っているかどうかは見た目では全く解らず、
実際に楽器を叩いてみるしか判別の方法はありません。
音楽の都・ウィーンに本部を置く「世界トライアングル協会」は、
毎年大勢の調査員を世界中に派遣していますが、
実際にその存在が発見されるのはたった10年に一度と言われ、
トライアングル骨はその構造上とても脆い為、
所有者はまさにトライアングルを叩く為だけ
産まれた存在と言っても過言ではないのです。
 

 
第二回「ボンゴについての講義」
 
前回「天才トライアングラー」について語りましたが、
あらゆる楽器にはそのエキスパートがいる訳です。
ラテン音楽などで広く用いられる打楽器・ボンゴにも
一流と呼ばれるボンガーが存在し、
その両腕で楽器を叩けば、
大地まで揺るがす程の重量感と、天を切り裂く様な音圧の波が、
聞く者の身体全体に突き刺さるかの様に強く響き渡ります。
この音は長い眠りから覚めた休火山
蓄積していた熱いマグマを地上に噴き出した時、
初めて空気に触れた事によって生じる爆発音にも似ていると言われ、
この域に達した使い手は世界にわずか7人しかいません。
そして超一流トライアングラーには特殊な上腕骨
トライアングル骨(ボーン)が必要だった様に、
ボンゴにもその音色を最大限に引き出すという、
内部に特殊な空洞を持ったあばら骨が存在します。
これを見分ける方法は以外と簡単で、
近くで楽器を叩いてみれば、その音に呼応するかの様に
所有者の胸全体が鋭く小刻みに震えだします。
この振動こそが音色に「力」を与え、
人間の持つ遥か遠い記憶を蘇らさずにはいられない
心に迫る原始のビートを生むのです。
スペインのマドリッドに本拠地を置く「世界ボンゴ協会」は、
毎年大勢の調査員を世界中に派遣していますが、
この骨は特性上とても脆い為、長い期間ボンゴを叩き続けていると、
その振動故に粉砕骨折を起し、
最悪だと破片が内臓を傷つけ生命すら危ぶまれます。
ですから超天才ボンガーがボンゴを鳴らす事の出来る期間はたった半年と言われており、
我々はそのはかなくも激しい響きを前にした時、ただ涙するしかないのです。
 

 
第三回「タクトについての講義」
 
今までに打楽器であるトライアングルボンゴについて語りましたが、
第三回目となる今回のテーマは「タクト」です。
タクトと言えば指揮者が持っているあの棒の事ですが、
皆さんとてもよく勘違いしているのは
あれが単に楽団全体のリズムをコントロールする為だけの
「道具」でしかないと思ってしまっている点です。
タクトはれっきとした楽器であり、
分類上はサックスやオーボエ等と同じ木管楽器に属します。
その起源は帝政時代のヨーロッパにおいて
小隊を率いる騎士達が使用した、
振ると音の出る剣「タクトゥー」だと言われ、
それは基本的には武器なのですが、
振る角度や強さによって刀身に開いた無数の穴から
様々な独特の音色を発する事が出来た為、
兵士達に信号伝令を送る役割を果たしていたそうです。
18世紀に入りフランスの楽器製造家によって
現代の姿が形造られたタクトは「音無き楽器」と呼ばれ、
その奏法が最も困難な楽器の1つとされています。
素人がただ適当に振っただけでは「金切り音」の様な嫌な音しか出ませんが、
一流の指揮者にかかると驚くべき事に、
何と全く音が鳴らないのです。
しかし、実際には人間に聞き取る事の出来ない周波数領域で
極めて特殊な音が発されており、
それを耳にした者はリラックス状態の脳波であるα波を大量に放出し、
まるで地平線まで続く一面のハーブ畑を駆け抜ける
爽やかなそよ風にも似た、
安らぎと悦びに満ちた感情を心の奥底から沸き上がらせます。
さらにその波形は、様々な楽器が一度に鳴り響くオーケストラにおいて、
全ての音を一体化させ、かつ音質に透明感を与えるという役割までも担っているのです。
そこまでの演奏が出来るようになるには最低でも10年はかかり、
何時如何なる状況でも絶えずタクトを振り続けた者だけしか
栄光の指揮者の座へと辿り着く事は出来ません。
 
かつてヨーロッパの騎士達はタクトゥーを振りかざし信号を送ると同時に、
その力強い音そのもので味方の士気を高めたと言います。
オーケストラを統率し見事なハーモニーによって我々に感動と勇気を与える指揮者とは、
まさに現代の誇り高き騎士(ナイト)と言えるのではないでしょうか。
 
このシリーズも次回でいよいよ最終回。
最後のテーマは「シンバル」です。
 

 
第四回「シンバルについての講義」
 
いよいよこのシリーズも今回で最後となりました。
テーマはそれにふさわしく、シンバルです。
まず最初に知っておいてほしいのは、
皆さんが学校の音楽の授業などで目にした事であろうシンバルと
オーケストラなどで一流のシンバリストが使用するシンバルは、
基本的に全くの別物という事です。
本当のシンバルというのは円形ではなく六角形をしており、
内側には職人によってアナログ盤の様に細かな凹凸が刻まれています。
持つ部分には本体を回転させるギアが備え付けられ、
この手動のギアによって左右それぞれ逆方向に高速回転する金属盤を
互いに弾かせる事であの独特の金属音が生まれるのです。
回転のスピードは速ければ速い程音質が向上する為、
一流のシンバリストは演奏の始まる数日前から楽器を装着し盤を回し始めます。
時間と共に速度は上がりピーク時で秒間80回転に達し、
あまりの運動量の為、我々の目にはその形状が純粋な円にしか見えません。
またオーケストラの公演が何ヶ月も続けば当然その間も絶えず回し続け、
ようやくそれが終了しても楽器を傷付けない為に
やはり数日かけて盤が自然に停止するまで待ちます。
そんな惜しみない努力によって造られた火花を散らしながら鳴り響く音色は
かのアーサー王伝説の聖剣・エクスカリバーを引抜いた際に
天を駆け抜けた轟音にも似ていると言われ、
シンバルは古来から荘厳で美しい神の領域に達した数少ない楽器の内の一つ、
または全ての打楽器の中の王とまで称される様になったのです。
ところで、トライアングルにはトライアングル骨
ボンゴにはボンゴ骨がありましたが、
同じ打楽器の宿命としてシンバルにも
その音色を最大限に引き出すシンバル(ボーン)が存在します。
シンバル骨は手首にあり、やはり内部に特殊な空洞を
持っていますが構造状とても脆い為、
激しく回転する2枚の金属盤がぶつかり合う衝撃にはとても
耐える事が出来ません
音を増幅させる為の構造と、それ故の危うさという悲痛なる矛盾を乗り越えた者だけが、
神の領域をも超越した全能の響きを奏でる事を許されます。
長い音楽史の中でその音が出現したのはたった1度きりと言われ、
記録ではそれを聞いた観客、そして本人を含めたオーケストラ団員まで
その場にいた全ての人々は突然失神しその場に倒れたそうです。
彼等は誰もが口々に「神の声を聞いた」「あまりの美しさに心を奪われた
などと証言しましたが、
手首に致命傷を負い二度と楽器を弾く事の出来なくなった天才シンバル奏者自身は
痛さの為に倒れた
というのは言うまでもありません。
彼はその後人々の前から姿を消し、再び現れる事はなかったそうです。
現在アメリカのデトロイトに本拠地を置く「世界シンバル協会」では、
演奏時の衝撃の少ないシンバルの開発に取り組んでいます。
これが完成すれば、もしかしたら我々にも天才の奏でる
素晴しき調べを聞くチャンスが訪れるかもしれません。
 

 
資料
 
世界楽器機構(WIS)が発表した、各楽器の能力を引き出す身体的特徴を挙げる。
 
トライアングル ・ ・ ・ ・ ・ ・ トライアングル骨上腕骨
 
内部に特殊な空洞を持ち、トライアングルの響きを増幅させ
その音はアラプスの清らかな雪解けの時だけに聞く事の出来る
混じりけの無い純粋な氷の破裂音にも似ていると言われる。
 
ボンゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ボンゴ骨あばら骨
 
内部に特殊な空洞を持ち、ボンゴの響きを増幅させ
その音は長い眠りから覚めた休火山が
蓄積していた熱いマグマを地上に噴き出した時、
初めて空気に触れた事によって生じる爆発音にも似ていると言われる。
 
シンバル ・ ・ ・ ・ ・ ・ シンバル骨手首
 
内部に特殊な空洞を持ち、シンバルの響きを増幅させるが、
演奏時の衝撃に耐える事が出来ない。
しかし、その骨の砕け散る音こそが聞く者の感動を呼ぶ。
 
タンバリン ・ ・ ・ ・ ・ ・ タンバリン骨頭蓋骨
 
内部に特殊な空洞を持ち、タンバリンの響きを増幅させるが、
演奏を行なう事で脳に負担が加わる為、
音を奏でるごとに1つずつ記憶を失っていく。
 
マラカス ・ ・ ・ ・ ・ ・ マラカス鼻
 
独特の形状と赤みを持ち世界の一流マラカシストの殆どがこの鼻を持っているが、
それが何故音に影響するのかは科学的に解明されていない。
 
 
参考文献「驚異の現代インストゥルメント大全」
発行・民明書房館
 
暮らしの適当報告書INDEX
ラルクアンシエル