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投稿時間:1999/11/29(Mon) 11:08
投稿者名:しーもす
Eメール:QWA03030@nifty.com
タイトル:下町のスプリンター

事務室のモニターに映った怪しい動きを、誠二は見逃さなかった。
誠二はバネ式のドアを体当たりで開き店内に飛び出す。
「待てっ!」
「やべぇ」。自動ドアから入ってきた客とぶつかりそうになりながら商品を持って拓は
店外へ。
「こらあっ、止まれえぇっ!」必死の形相で追いかける誠二。
後ろを時折振り返りながら、逃げる方も捕まるまいとペースを上げる。

「ハアッ、ハアッ…」
「ケホッ、ケホッ。ハアッ」
「少しは手加減しろよ、タハアッ」
「何言ってんだよ、ケホッ、捕まえなきゃ、ハーッ、うちの商品が持ってかれちまうだ
ろ」

空き地に寝転がる二人、ややあって、
「こないだだってお前、パトカー来ちゃったじゃねえかよ」
「あれはたまたま来た隣町のお客さんだったからだろ?」

「どうだ、俺は毎日ジョギングしてんだぞ」
「俺だって毎日配達で自転車こいでらぁ」
「健康は、足腰からだよな」
「次はどこがやる?」
「八百屋のヒロんとこと電気屋のタケ」
「そりゃ、見ものだなぁ」

駅前南商店街で行われている健康法は相手の店の商品を持って走り、盗られた方はそれ
を追いかけるというもの。
ガードをくぐり、駅をはさんだ北側の空き地まで逃げられればその商品は相手のものに
なるため、逃げる方も追う方も必死だ。組み合わせは年齢、性別、タイムによって決め
られる。
何より防犯訓練になるので一石三鳥、実際何度も犯人逮捕に協力して感謝状をもらって
いるのが街の誇りだ。

「風呂行こうぜ拓」
「全力疾走の後の風呂とビール。このためにやってるようなもんだ」
「ハハハハハハ!」