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投稿時間:1999/11/29(Mon) 11:01
投稿者名:やま
Eメール:HAE01741@nifty.com
タイトル:北の大地紀行〜ふるさとを訪ねて



厳寒の北海道上川地方。大雪山の裾野に位置するとある寒村では、村をあげて
の乾布摩擦が行われている。山の樹木が寒さに耐え切れずに破裂する音を背景
に、ダイヤモンドダストが朝日にきらめく幻想的な雰囲気の中、氷点下36度
の朝の空気を胸一杯に吸い込んで村民達が声を合わせて乾布摩擦に励んでいる。
2月だというのに全員素足に褌姿だが、彼らの肌の赤らみ、汗ばんでさえいる。
坂東村長は言う。
「今年から始めたんですがね、将来的にはこの大会を全国規模に有名にしてで
すね、この村の観光資源のひとつにしようと思うんです。健康がテーマですよ。
幸いウチの村には温泉も湧いてますし。」

雲ひとつない晴天の空を背景に、トムラウシ岳の冠雪が風に巻き上げられている
のをくっきりと望むことができる。参加者の少しだけ減った会場には村民達の汗
が湯気となって立ち込めている。これから彼らは冷やし中華で暖を取ったあと、
石狩川での寒中水泳へとなだれ込むのである。

村民「そりゃあちめたいべさ。冬だもんあったりまえだべゃ。でも農協も協力
してるお祭りだしな。」

アカマツの林は雪化粧に覆われ、深緑と白銀の見事なコントラストをなしている。
雪の積もったまっさらな畑地に点々と足跡を残しながら、キタキツネの親子が
ひょっこりと顔を出す。彼らはエキノコックスを媒介する害獣だ。

この日の為に川の表面に張った氷は30メートル四方に渡って切り崩されている。
川の流れは速く、不用意に飛び込んだ村民が2〜3人氷の下に吸い込まれていく。
家族の悲鳴が樹々を縫ってトムラウシの山にこだまする。

市長「将来的にはですね、国からの補助を取り付けて大健康レジャーランドを建設
する予定です。ええ、既に建設予定地の住民にはみんな立ち退いて頂きました。
もちろん皆さん協力的でしたとも。」

乾布摩擦、寒中水泳を終えた村民達は、クロスカントリースキーを履いて3キロ先
の共同温泉へと向かう。素肌が金属に触れると瞬時に凍り付き、皮膚が剥ける。
力尽きた村民達も新雪に抱かれて寝顔も安らかだ。春になるとこの一帯では雪の中
からふきのとうと一緒に遭難者が何人も顔を出す。

市長「来週から道庁と大蔵省への補助金陳情のために出張することになってます。
知事とは高校時代同級生でして、よく一緒に小便で雪に絵を描いたものですよ。
わはははは。」

静謐な村に真紅のランプを照らしながら救急車が到着する。鮮やかなオレンジ色を
身に纏ったレスキュー隊員が白銀に映えている。オロナミンCのホーロー看板から
下がるつららが陽光を受けてきらりと光る。

村長「ほら、刀を打つ時でも熱く熱したあと、水に浸けるじゃないですか。
焼鈍っていうんですか? アレと一緒ですよ。そうやって体を鍛えるんです。」

村外れの浴場は大雪山の豊富な鉱泉を使った露天風呂である。温泉の湯気が冷気で
凍り、周囲の樹木に小さな樹氷を形作っている。共同温泉にたどり着いた村民達は、
しばれかじかんだ体で一気に温泉に飛び込む。唸り悶絶する村民達。

村長「健全な肉体には健全な精神が宿る! 私に任せておけば村の将来は安泰ですわ。
がははははは。」

のどかな北の寒村の朝はこうして過ぎていく・・・