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投稿時間:1999/11/29(Mon) 00:15
投稿者名:岸利 透
Eメール:QZX04544@nifty.com
タイトル:ヒーリング


世紀末、日本中で空前の「癒し」ブームが巻き起こっている。

分刻みのスケジュールで働くサラリーマン、家事に育児に、ご近所付き合いも
欠かせない主婦、一流大学出でも超のつく就職難に直面している学生・・・。
携帯電話やインターネットを駆使し、休む間もなく情報を収集しないと周囲か
ら取り残される、そんなスピードを持った社会は我々の生活を豊かにする反面、
人間にその能力以上の処理を要求しているのかも知れない。

そんな現代社会にストレスを感じた多くの人々が、心のどこかで癒しを求める
のはごく自然なことだ。以前、その役割を果たしていたのは異性であったり、
大自然であったりしたのだが、近頃では男女間の力関係が逆転、お互いに安ら
ぎを求めることができなくなり、また都会で育った人々は大自然という非日常
な環境がかえって不安感を煽るなど、それらの効果はほとんど期待できなくなっ
た。

そんな中、最近注目されているのが「ヒーリング」である。

例えばヒーリング・ミュージック。川のせせらぎや森林の中の音、宇宙空間を
イメージさせる音楽などが収録されたCDが発売され、販売店内に専門コーナー
が設けられるほどの人気ぶり。栄養剤のCMに使われた美しいピアノのインス
トゥルメンタル曲がヒットチャートの1位になったのは記憶に新しいところだ。
ほかに、特に若い女性に人気なのが「アロマテラピー」。
これは香を焚いたりエッセンシャルオイルを揮発させることにより、その芳香
によって精神安定や疲労回復に効果があると言われているもの。
また、いわゆる「バーチャル・ペット」等も、現代ならではの癒しの道具と言
えるだろう。

これらの共通点は、気軽に、そして一人で楽しめると言うところだ。
つまり、異性にプレゼントを用意したり、お弁当を作って山まで出かけなくて
も済むのだ。忙しい現代人にはまさにうってつけである。

ここで、最近特に会社帰りのサラリーマンに人気のあるヒーリングスポットが
あるので紹介しよう。場所は新宿歌舞伎町。日本最大の歓楽街の一角に、その
店は人目を避けるように、ひっそりとたたずんでいる。「黒薔薇」と書かれた
ドアを開けると、薄暗い室内にいくつかの人影。ところどころでロウソクの火
が揺れている。また、複数の男性が一様に甘い声を立てているのが聴こえる。

常連客という中間管理職の男性に話を聞いてみた。
「やはり、リラックスするポイントは裸である、ということですね。生まれた
まんまの姿が一番いい。それと、女性の優しい声で命令される、あれはたまり
ません。普段は女子社員に命令できる立場ですけど、近頃のコはコピーでもお
茶でも露骨にイヤな顔しますからね。だから、女王様に命令されると嬉しくて、
ありのままの自分を出せるんです。あと同時に、凝った腰とか肩とかを叩いて
くれるんですよ、ムチで。これがまた効く。」

疲れたサラリーマンにピッタリなサービス内容、人気の理由もうなずける。
そして彼は取材の最後に言った。
「でもやっぱり一番至福なのは、顔を細いかかとで踏まれた時ですね。仕事も
家庭も、何もかも忘れ去ることができる。」

日常生活で張りつめた心と体を、時にはほぐしてもらいたい。
人々が癒しを求める限り、ヒーリングは今後もっと盛んになるだろう。
そこのあなたも、携帯電話やパソコンの電源をちょっと切って、日頃の疲れを
彼女の赤いヒールで癒してみては?


岸利 透 <QZX04544@nifty.ne.jp>