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投稿時間:1999/11/27(Sat) 02:39
投稿者名:腹黒河
Eメール:UHH99741@nifty.com
タイトル:ジャンヌ・カルマン夫人

 1997年、ジャンヌ・カルマン夫人が122歳という驚異的な年齢で死去した。欧
米の研究者たちは彼女の長生きの原因をめぐって、論争を繰り広げた。
 イギリスの科学雑誌『Nature』に掲載された、カーンウッド博士の報告には「彼女は
子供が一人しかいなかった」ことを挙げている。

 何故、子供がひとりだと長生きできるのか? 博士は「遺産を揉めなくて済むから」
という明快な結論を示した。
 実際、ジャンヌ夫人の学生時代の友人で子供を4人持った、マリーさんは1922年
に亡くなっている。マリーさんには、わずかな財産しかなかったが、4人息子が骨肉の
争いを演じた。さらに……。
 晩年、ジャンヌ夫人は遠い目で、友人の不幸を嘆いていた。
「ああ、可哀想なマリー。あの子供たちのせいで、臓器を売るハメになって……」

 もちろん、子供が少ないは女性はすべて長生きするとは限らない。統計によると子供
持たない女性は心臓病や子宮頸部がんの発症率は低くなるが、乳がんや呼吸器疾患のリ
スクが逆に高くなる。
逃げ腰な結論だが、寿命には多くの要因が影響しているのである。

 晩年のジャンヌ夫人に会ったことがある。初夏の緑がまぶしパリ郊外の自宅で、彼女
は一人娘のジェンシカ(60)さんの手厚い看護のもと、車椅子で自宅の庭を眺めてい
た。庭には、小さなハーブ畑があった。
「健康のために、毎日ハーブを食べるのですよ」
 しわがれているが、はっきりした声で、ジャンヌ夫人はそう教えてくれた。ジェンシ
カさんも畑いじりやガーデニングが好きらしい。
 わたしはテラスにトリカブトの花が咲いているのに気付いた。ジャンヌ夫人の車椅子
を引くジェンシカさんは、その花を見て微笑んだ。