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投稿時間:1999/11/26(Fri) 01:41
投稿者名:玄界灘男
Eメール:BYW02302@nifty.com
タイトル:コラム★「猫丸呑み健康法」NI

★最近「猫を喉に詰めた」として病院に担ぎ込まれる人が首都圏を
中心として増えている。
実はこの現象は数年前から始まった「生物を丸呑みにし、その後、
吐き戻すことにより消化器(特に胃)の浄化・活性化をはかる健康
維持法」という民間療法がエスカレートしたものである。
★昔から「声が良くなる、喘息が治る」としてナメクジを丸呑みに
したり、結核の療法としてサンショウウオを丸呑みにすることは多
くの土地で行われて来たが、最近の都会ではこういったものを捕獲
すること自体が困難となっており、手近なペットに白羽の矢が立つ
こととなったものである。
当初は昆虫や小魚が主流であったが、ゴキブリやカブトムシを丸呑
みしたところ吐き戻せず腹痛を起こす人が続出し、昆虫丸呑みブー
ムは一気に下火となるかのように見えた。
★これに替わり主流になったのが「小魚丸呑み健康法」である。こ
の健康法の根拠は「人間ポンプ」の芸をしていた芸能人が長寿であ
ったことによる。何故「碁石健康法」では無いのかは意見が別れる
ところではある。
しかしこのブームも、一部狂信的な健康マニアからは「金魚や泥鰌
では充実感が無い」「水質が劣悪な場所でとれたものでは不衛生で
ある」との不満が続出し、以後、「小魚丸呑み健康法」主流派と、
「脱小魚丸呑み健康法」派とに別れた経緯がある。
★もともとこの健康法は、1775年にメスマ−が提唱し、ピュイゼ
ギュ−ル侯爵が発展させた「動物磁気説」、いわゆるMesmerism
の派生傍流と「信仰治療」、それにアニマチズム、アニミズムが入
り混じったものであり、原始的な動物崇拝が核となっていることは
明確である。
社会学的な見地から言えば「世情が不安定で不況感の強い退廃的な
社会」には、このようなプリミティブで力強い運動が起こりやすく
なる傾向にある。
「脱小魚丸呑み健康法」派はその後、手近なペットであり、比較的
廉価なハムスターや文鳥等に範囲を広げていったが、鳥類は誤って
飲み込んでしまった場合に、大変に消化が悪いため(羽・嘴等)、
最終的には哺乳類に落ち着いた感がある。
この中でも、更なる健康を求めた人々は次第に小型哺乳類を求める
ようになった。特に一時期ブームとなったイタチ科のフェレットの
幼体などは、その形体から「喉越しがよい」と好評であり、一時市
場でも品薄となるほどであったが、一般的でないことや、繁殖業者
が限られていることなどから闇取引きが頻繁となり、一部暴力団の
資金源になるなどのダ−ティなイメージが災いして、ブームに陰り
が見えた。そして健康を愛する人達が、最終的に行きついたのが、
古来より人間との関わりが深い「猫丸呑み健康法」なのである。
猫の中でも短毛種であるシャムやトンキニーズ、スフィンクスとい
ったものに人気が集まっており、「純粋な日本猫」や「牡の三毛猫」
といった稀種には高い値がつけられている。
★しかしこの健康法にはデメリットも多い。一度呑まれて吐き戻さ
れた猫の多くは、健康法実践者や他の人間になつかなくなるのだ。
このため実践したい人はその都度仔猫を購入することとなり、家計
における仔猫購入費用は増加する一方となる。また、「自分になつ
かない」「ニ度目に呑もうとすると必死で抵抗する」「すぐに大き
くなってしまう」という人間側のエゴから捨て猫が増えることも社
会問題となっている。
★日本医師会ではこの健康法ブームに対し、「猫丸呑み健康法は何
ら科学的な裏付けもない迷信であり、猫の立場から言えば迷惑この
上ない愚行である。実践者は呑まれる猫の立場になって考えて見る
べき。」と発表し、流行に眉を顰めている。
また東京警察病院の佐々木医師は「咀嚼・嚥下力のない老人や子供
では、小形の仔猫であっても喉に詰まりやすいもの。もともと下顎
の形態や口腔内の構造からしても、人間は猫の丸呑みには適しては
いない。」と安易な実行を戒める発言をしている。
★この健康法、一時のブームなのか、新たに市民権を得るかは、今
しばらくの間、動向を見守るしかないようである。