投稿時間:1999/11/24(Wed) 02:29
投稿者名:MARCHE
Eメール:GBB03071@nifty.com
タイトル:ムッシュ・ジェルモンへの手紙
●1通目の手紙
「おとうさんへ
きのうはじめて社交界というところに行ってきました。
とても華やかでぼくは目がくらんでしまいました。でもみんなとてもいい人
ばかりで、はじめてきたぼくみたいな人にもとても親切にしてくれました。
いま社交界でとてもはやっている薬をいっしょに送ります。
カリー・エトランゼという名前で、お酒といっしょに飲むと頭のはたらきが
とてもよくなるんだそうです。
飲み続けていると無病息災・精力絶倫・頭脳明晰になれるのでみんな『これで
どんな病気でもだいじょうぶ』『これこそが我々の求めていた薬だ』とよろこん
でいます。
夜な夜な開かれる宴会では欠かせないものともなっているのだそうです。
ぼくの分としていっぱいもらったのでおとうさんにも送ります。飲んでみて
ください。
また手紙を書きます。
あなたの息子 アルフレート」
(黄色い丸薬が数粒同封されている)
●2通目の手紙
「おとうさんへ
ぼくはとっても幸せです!!
あれほど美しい女(ひと)がいるなんて!!それにぼくのことを愛してると、そう
言ってくれたんですよ!!
ぼくはもう薬は飲みません。社交界にも行きません。
ぼくはあの女(ひと)といっしょに田舎で暮らします。
この手紙がおとうさんの元に届く頃にはプロヴァンスの屋敷にいるはずです。
なにかありましたらこちらにお願いします。
もういらない分の薬もいっしょに送ります。
それでは。
あなたの息子 アルフレート」
(黄色い丸薬が数袋分同封されている)
●3通目の手紙
「おとうさんへ
おとうさんの言ったとおりでした。
あの女は金だけを目当てにぼくに近づいていたのです。
金がなくなって贅沢な暮らしができないと書き置きしてあの女は逃げて
しまったのです。
もう女なんか信じられません。
女は金だけが目的なのですから。もう何も信じられません。
ぼくはパリに戻ることにしました。
こんな田舎になんか・・・・・・もういられません。
あなたの息子 アルフレート」
●4通目の手紙
「おとうさんへ
今日、あの女にあいました。マーティン侯爵家のパーティーで着飾って
酒を飲んでいたのです。美しさだけは相変わらずのようでした。
皆はこの女の正体を知らないようで、ちやほやとしていました。正体を知らし
めてやろうと皆の門前で『金だけが目当ての売女にはこれがお似合いだ』と札束
を投げつけてやりました。
さすがに恥じたのかあの女は泣き崩れていました。
皆はぼくを「男の風上の置けない奴」と責めましたがぼくは満足しています。
あの女の醜い正体を皆の前で暴くことができたのですから。
薬はまだ流行っています。ぼくもまた飲み始めました。前よりもしあわせな
気分になっています。もう薬を手放せません。おとうさんにも送りますね。
あなたの息子 アルフレート」
(黄色い丸薬が2袋同封されている)
●5通目の、配達されなかった最後の手紙
「おとうさん、あなたはなんてことをしてしまったんですか?
そしてぼく。ぼくはなんてことをしてしまったんだ。
ヴィオレッタ・・・・・・ぼくはヴィオレッタを裏切ってしまったんだ。
それどころかずたずたに…もう立ち直れないほどに傷つけてしまったんだ。
プロヴァンスを出ていったときも金ではなく、おとうさんの願いで身を引いた
んだ。存在が妹の結婚にさしつかえるといって。
高級娼婦のどこがいけないんだ??身分?年齢?
ぼくだって身分なんかない。爵位があるわけでもない。
だからといって真剣な想いをふみにじる権利なんか誰にもありやしない。
ヴィオレッタが死にそうだという知らせを受けました。
もう遅いかもしれませんがぼくは会いに行きます。おとうさんとぼくの
仕打ちをわびるために。どんなにあやまっても足りないかもしれませんが。
もう行かなければなりません。
とり急ぎ
アルフレート」
(マスミ・リン「メイキング・オブ・椿姫」より抜粋)
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